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裕太くんという小学生のともだちがいて、いつもやりこめられて困ってる。先日、裕太くんが、指を折って数を勘定しはじめた。「いち、にい、さん、しい‥‥」ところがその指の折りかたをながめてたおれはアゼンとした。かれは一といって親指を折る。これはいい。ところがつぎに二といいながら親指をひらき、ひとさし指を折るのだ。そして三といいながら、さらに親指を折る。四で親指とひとさし指をひらき、中指を折りまげたのだ。おれはボーゼンとそのすばやい指さばきをみつめるだけだった。そう、かれは二進法で指を折っているのだ。おれは声をうわずらせながら、かれにたずねた。
「お、おもしろい数えかただね。そそ、それ、だれに教わったの?」
「じゅくでだよ。これだとね、1023までかぞえられるんだよ」
1023! 指を折って数えられるのは10までだと、カタクナにしんじこんで生きてきたおれの生涯はなんだったんだ? 11まで数えるたんびにズボンのチャックをおろしていたおれはなんだったんだ? おれのアタマのなかではいつもの、自我がホーカイする音が鳴りひびいていた。だけど、ここでひきさがるわけにはいかない。小学生に自我をホーカイさせられままでいられるもんか。
「それならこれは?」
おれは中指をたてた手の甲をかれに示した。
「27!」
「はずれー。これはね、ファックユーっていうの」
「なにそれ」
「英語のあいさつだよ。学校ではやらせるといいよ」
「へえ、えいごなの? かっこいいね。やってみるよっ」
そういうわけで、このごあいさつが藤代小学校で流行していたらたいへんうれしくおもうおれがぽいうだ。
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