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「中学のとき、上級生に、好きな女がいたんだ。バスケット部で、なんか目立つかんじで。おまけになんか家庭が複雑ならしくて、ちぉっと不幸なかんじでさ。たまにいたろ、そういうのって。なんつうか、ぜったいに幸福になれそうにもないかんじの女って。ちぉうどそういう女でさ、それがまたたまんなくって、おれ、本気ですきだったんだ。だけどほらおれなんか後輩だったし、なんか近寄りがたい雰囲気もあったし、だからくちなんかもきいたことなくて、ただあこがれてるだけだったんだ。でも、ああいうのって、フシギなもんだよな。おれはそのひとがスキなわけだから、学校の廊下をあるいてるときでもなんでも、つねに彼女のことをなんとなく探してて、めざとく見つけたりするわけだろ。するとむこうもこっちをみててさ、目と目があっちぁって、もしかしたら彼女もおれのことを好きなんじぁないかっておもったりしてね。そういうのを夜中に考えはじめたりすると、フシギな気もちになっちぁって、なかなか眠れなくなっちぁってさ。おまえだってあったろ、そういうのって」
「ふむ」
「そんな中学二年生の夏休みのことなんだけどね。そのころおれ、ツーリングクラブにはいってたんだけどさ」
「ツーリングクラブ?」
「うん。ブラック卍エンペラ〜っていうんだけど」
「ぷははは、それのどこがツーリングクラブだ、バカモノ」
「しぉうがねえだろ、おれんとこじぁ男はみんな中学生になると強制的にそこに入会させられることになってたんだよ」
「ははは、どんな土地だそりぁ」
「そんで、そのころツーリングクラブでタマリ場にしてた場所ってのが先輩の部屋なんだけどさ。三つとしうえのひとで、マッハ3にのっててさ。しってんだろ、マッハ3」
「まがらない、とまらない」
「それそれ。めちぁくちぁかっこよくてさ、純粋にかっこいいなとおもって、あこがれてたんだよ」
「バイクに? それとも先輩に?」
「両方。先輩はどういうわけかおれをかわいがってくれてさ、いろいろ面倒みてくれて、バイクにも乗せてもらって、はじめての集会もそのひとにつれてってもらったんだ。おれはうれしくて、ほんと毎日先輩のとこに遊びにいったもんだよ。先輩の部屋ってのはハナレになっててさ、おれは毎日そこでぐだぐだしてたんだ。ほかにこれといってすることもなかったしな。なんとなくみんなもそこに集まってすごしてた。で、ある日さ。いつものようにそこにいってみると‥‥いってみるとさ。仲間の先輩とかが五人くらいきてて、五人くらいでさ。‥‥‥」
「どうしたんだよ」
「‥‥うん」
「どうしたんだよ」
「おまえ、女まわしたことってあるか」
「は? なにをいいだすんだよ、藪から棒に」
「こたえろよ。したことあるか」
「だって、いつもおまえとしてるじぁん」
「ばか、あれはちがうよ」
「ちがうの? だったらないよ」
「ふん」
「なんなんだよ」
「うん」
「ああ、そうか、女をまわしてたのか」
「‥‥うん」
「あ、もしかして、そのまわされてたのが、おまえがあこがれてた女だったとか」
「‥‥‥」
「おいおい、ほんとかよ」
「うん」
「それでおまえはどうした」
「どうもこうもないよ。ただ眺めてるだけ」
「なんだ、せっかくだからやらしてもらえば‥」
「ぎいいい」
「いや、じ、冗談、かるい冗談だってば」
「まえまえから先輩たちが彼女のことをうわさしてたのはしってたんだよ。だけど、まさかあんなことするなんてなあ。なんつうかあれは、ショックだったよなあ。はじめてオトナの世界をかいまみたつうか」
「オトナの世界というのともちぉとちがうとおもうけど」
「服なんかぬがしてなくて、ただパンツだけおろしてさ。その尻がいようにしろかったのをおぼえてる。牛乳みたいだったよ」
「うん」
「‥‥‥おれは二度と先輩のところにはいかなかった。それから、だんだん落ち込んでさ。なんでおれはあのとき、眺めてることしかできなかったんだろうって、じぶんをなさけなくおもったり、せつなくなったり、そんなことばかりで、なんだかみじめな夏休みになっちぁったよ」
「うん」
「夏休みがおわって、また学校がはじまった。彼女はそれまで通り学校にあらわれた。なんにもなかったみたいに。それまでと変わったとこなんてぜんぜんなかった。すくなくとも外見はね。ほんとに、なんにもなかったみたいに、それまでとおなじようにふるまってたよ。女ってすげえよな。それにくらべておれは、なんつうか、ダメだったな。どうしても白い尻がわすれられなくて、もう、まっすぐ彼女のことをみられなくてさ。べつにおれにはうしろめたいとこなんてないはずなんだけど、だけどどうしても彼女をまっすぐみられないんだ。そのくせ学校のなかではいつも、彼女のことをなんとなく探してて、しかも以前よりめざとく彼女をみつけるようになっちぁってさ。彼女のすがたが視界のスミにはいる、おどろいておれはそっちをみる、彼女がそこにいる、おれはもっと驚いて、あわてて視線をそらす。なんつうか、犯罪者みたいなもんだよ、わかるか、そういうの」
「なんとなく」
「たまに目があっちぁったりすると、もうタイヘンだよ。犯罪がばれたような気もちだよ。あわてて彼女から視線をそらすんだけど、そういうのも不自然だろ。そういうのって、ぜったい彼女はいい気もちしないだろ。おまけにおれは気がどうてんしてるからさ。もしかしたらおれがいま視線をあわててそらしたことで、おれが彼女をいやらしい目でみてたと思われたかもしれないとか考えて。すぐに彼女のとこにいって、そうじぁないっていいわけしたくて、でももちろんできるはずもないし。それでおれはうつむいて、犯罪者の気もちになるってわけなんだ。以前は彼女と目があえば、それでうれしくなれたのにな。けっきぉく彼女が卒業するまでおれはそのままだったよ。おどおどしてるだけだった。なさけないけど、おれにはどうしようもなかったんだ。おれは彼女のことがやっぱりすきで、そのことを彼女につたえたかったんだけど、けっきぉくどうにもならなかった。どうにもならないまま彼女は卒業して、学校から消えてなくなっちまった。洪水がきて、彼女も先輩たちも、みんなどっかにながされてっちまった」
「‥‥‥」
「どうおもうよ」
「どうってもなあ」
「初恋なんだけどさ」
「ハ、ハツコイか」
「そうだ」
「う〜ん」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「やがておれも中学を終えた。高校でべつな女とつきあって、だんだん彼女のこともおもいださなくなった。そういうもんだろ。べつな女で手いっぱいになっちぁえばさ、やったこともない女のことなんか、そうそう思いだすもんじぁない。やった女だって忘れちぁうしな。じっさい、彼女のことなんか、すっかり忘れちまってたよ。こっちで再会するまでは」
「え? またあったの? どこで」
「ほら、いつだったかおまえがここにきたとき、おれがゲリしてたことがあったろ。予備校のやつらにさそわれていった歌舞伎町で、女をナンパしてつれてきたんだけどぜんぜんタタなくてこまったって説明したろ。あのときつれてきた女ってのがさ」
「その女だったの?」
「うん。居酒屋でばったり」
「なるほど。それでギモンがとけたよ」
「ギモンて」
「高校時代には一日に十回も射精して、ギネス沖山とまでおそれられたおまえがそうかんたんにインポになるわけないような気がしたんだよ」
「うん、まあそういうことだよ。中学のときのことがまだアタマに残ってたんだろうな。ここにつれてきて服ぬがしたまではよかったんだけど、おれの♂ときたらしぼんだまんまでさ。まいっちぁったよ。けど、そしたら彼女は真剣に同情してくれてさ。いろいろ励ましてくれて。かえりぎわに、もし♂が役にたつようになったらぜひおいでよって、おれに名刺をくれたんだ。三千円ぽっきりだからって」
「ぽっきり?」
「ぽっきり。おまけにその名刺ってのが、いかにもってかんじなんだ。なまえと電話番号しかかいてなくて。それでおれはいてもたってもいられなくて、すぐにでもそこに行きたかったんだけど、ひっでーゲリになっちぁってさ。おまけにかねもなくて、まいっちぁったなもうとか弱りまくってるところに、ひぉっこりおまえがきてくれたんだ」
「じぁおまえあのとき、あれから居酒屋にいったわけじぁなかったの」
「そうだよ。おまえが貸してくれた三千円にぎりしめて彼女の店にいったんだ」
「なんてとこ」
「いつでもぬるぬる」
「いつでも? ぬるぬる? ちぉっとまてよ、どっかで聞いたことあるぞそれ。あ、おもいだした、ヒロポンがその名刺をもってたんだよ。いつでもぬるぬる、ルル」
「ヒロポンが? へえ、そうなんだ、探してもないわけだよな、へえ。あいついつのまに」
「いいから先をつづけろよ。いったいどんな店だったのさ」
「のぞき部屋だよ。料金をはらって個室に案内されてさ、小窓からのぞいたら、なかに女がいたんだけどさ。ミクラスみたいな化粧の女がさ。その女っていうのが」
「ルルちぁんだったのか」
「うん。パンツ一丁でベッドにねころがってたのが、ルルちぁんだったんだよ」
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