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♂
「ちくしぉう」
「まいったなあ」
「みじめだよなあ」
「やんなるよなあ」
「ったく、おれたちって、どこまでついてないんだよ」
「神もホトケもないものか」
「ちくしぉう」
「ちくしぉう」
「でも、おれおもったんだけどさ」
「ん」
「やっぱしこれは、むくいなのかもしれない」
「やけにしゅしょうだな」
「ヘンな話だけどさ、なんかおれ、そろそろしんじぁうような気がするんだよ。ここんとこなんかグワイが悪くてさ。この病気とはべつにさ。なんか」
「え、おまえもなの? じつをいうとおれもここんとこなんかだるくて調子がおもわしくなかったんだ」
「おまえのもむくいだよきっと」
「そうかあ。むくいかあ」
「むくいむくい」
「やっぱしおれたちって、くさったやつなのかな」
「じっさいチンポコはくさってるな」
「それをいうなって」
「すくなくとも、おもいあがってたことはたしかだ」
「感謝の気もちがたりなかった」
「まいにちゴロチャラしてるだけ」
「いいことなんてしたことないし」
「アタマも悪いし」
「神さまはお見通しだな」
「だけど」
「ん」
「このまましんじぁったら、親に悪いな」
「悪いなあ」
「お祈りしようぜ」
「ザンゲか」
「それそれ」
「おまえなにかモンク知ってるか」
「知んないけど謝りぁいいんだろ」
「そんなもんかな」
「そんなもんだよ」
「やろうぜ」
「うん。謝ろう謝ろう」
「天にましますわれらのちちよ」
「ちちよ」
「わたしたちはみこころに反して欲望のおもむくまままいにち遊び暮らし」
「遊び暮らし」
「いまこうして罰をうけてやっと目がさめました」
「さめましたさめました」
「もうみだりにチンポコを立てたりしません」
「みだらに立てません」
「だからどうかお許しを」
「お許しを」
「アアメン」
「アアメン」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥あほらし」
「やってられるかこんなの」
「なんでおれたちがこんなひどい目に」
「この世は闇だ」
「でもさ」
「ん」
「どの女がよくなかったのかな」
「どいつかな」
「あの看護婦みならい」
「あれか」
「うんあれ。なんかヘンだったしさ」
「たしかにあれはおかしかった」
「あれしなさいこれしなさい」
「命令調」
「いろいろ講釈たれるし」
「知識がありすぎなのもヘンだよな」
「『十代の男の子の性器の膨張率っていうのはね』」
「にてるにてる」
「でもかんがえてみりぁ看護婦が性病になって気づかずにいるわけないぞ」
「いわれてみるとそうか」
「じぁ誰だったんだろ」
「まさかあの高校生ってこたないよな」
「どの高校生」
「ほらあの、ひっひっひ」
「ヘンなわらいかたのあれか」
「だってあいつら、さいごまでおれのこと、外人だとおもってたんだぜ。おれの陰毛みながらさ、髪の毛は金色でもこっちのは黒いんだねだって。ひっひっひ」
「ひっひっひ、よせよ、わらわすなよ、チンポコにうずく」
「ひっひっひ、そういえばあの美容師みならい、あいつなんて、おれがフランスに帰ったあとも手紙くれとかいって、住所をかいた紙をおれにわたしてったぞ」
「フランス?」
「うん。あのときおれ、フランス人だってことにしてたからさ。パリジャンだよパリジャン」
「パリジャンて女だろ」
「いいじゃん。ひっひっひ」
「ひっひっひ」
「あれがいちばんバカだったよな」
「案外ああいうのがあやしいよな」
「でもおれ、おもうんだけど、あのバスガイドじぁないのかな」
「松田聖子の化石みたいな髪型の」
「あれあれ。なんかおれ、ヒリっとしたんだよ」
「あいつとやってるとき?」
「も、いれたとたん。ヒリ」
「ほんとかよ」
「ほんとほんと。ヒリ」
「げえええ、ヒリかよお」
「うん。ヒリ」
「間違いねえよ、じぁあいつだよ」
「ちくしぉうガイド」
「ヒリヒリガイド」
♂
→もちろんつけはまわってくる。代金は支払われなければならない。二月になってすぐ、こんなふうに請求書が舞い込んできた。
→目覚めるとパンツが濡れている。「このトシになって夢精かあ? だけど、だすもんはだしてっけどなあ」これがはじまり。もちろんこいつは夢精なんかじぁない。そのうち小便の回数がふえだす。頻尿っていうやつだ。やがてチンポコがとつぜん、うずいたりするようになる。なにしろこれがたまらない。まるで電流火花がチンポコを走りぬけたような感覚だ。ときと場所をえらばずに、いきなりうずく。たまらん。とうとう辛抱たまらず書店へ足をはこんで家庭の医学をひろげ、とあるページのとある病気の症状がじぶんのとそっくりなのを発見し、本だなのまえであおくなる。わらいごとじぁない。性病は、なにしろひとの気ぶんを暗くさせる。敗残兵みたいな気ぶんのところにもってきて、とどめに痛み。イタイというよりも、アツイという感じ。これは小便のとき。うずいていたくて暗くって、三拍子そろわれちぁもはやひとりでうだうだ悩んでる場合じぁない。マクラを抱えて沖山に相談する。
「沖山あ、じつはよお、話があるんだけどよお」
「おまえも? じつはおれも、おまえに話があるんだ」
「どんな話?」
「おまえさきにいえよ」
「おまえこそさきにいえよ」
「おまえこそ」
「ち。しぉうがねえな。ジャンケンできめようぜ」
「そうしよう。せえの、ジャンケンポン」
「あいたー、負けたー」
「さあ話せよ」
「うん。じつはさあ」
→いうまでもないことだがおれたちの相談事というのはまったく一致していた。つまりおれたちは、まったくおなじ病気にかかっていたわけだ。
→つぎの大安の日の朝、おれたちはいつも利用してた銭湯のカベの広告を頼りに護国寺へでかけた。新品のパンツをはいて護国寺の山田医院をさがした。医院はすぐにみつかった。屋根のうえにばかでかい看板がでてたからだ。それはこんな看板だった。
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