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→それがさあ、三日ばかりまえに、とつぜん姿を消しちぁったんだよ。いや、ヒロポンもぜんぜん知んないってさ。うん、ひとりっきりで行方をくらましちぁったんだよ。さっき田舎のほうにも聞いてみたんだけど、帰ってないって。おふくろさんが電話にでたんだけど、もう完全にあいつのことは見放してるみたいだったなあ。それにしてもどこいっちぁったんだろうな。あのときみたいにまたヘンな女のとこにころがりこんでるのかもしんないけど、でも、なんかそういう感じじぁなかったんだよ。ここんとこあいつ、様子がおかしくてさ。おれも心配になりはじめた矢先に、消えちぁったんだ。どこいっちぁったのかなあ、ほんとに旅にでちぁったのかなあ。
→いや、あいつはおれのまえでは強がりばかりいってたけど、ほんとはかなり傷ついてたんだよ。まちがいないよ。考えてもみろよ、性病で受験に失敗して、拳銃をつきつけられてフルチンで町なかをかけずりまわって、さらにアタマを丸めさせられたうえ家族にいじめぬかれたんだぜ。これで気がヘンにならないほうがどうかしてるよ。なにしろあいつ浪人してから、いいことなんてなーんもなかったもんなあ。
→でも、おれのところに逃げこんできたばかりのころは、あいつにもまだカラ元気があったんだけどね。それが、日をかさねるにつれてなんかこう、ショボンとしてきちぁって、食欲とかもなくなってきちぁって。名前をよんでも返事をしなくなっちぁって、かんがえこんでたりね。夜中にね、デンキを消したあとにフトンなかでさ、しみじみいうんだよ。「おれって、なにが楽しくて生きてんのかなあ」って。それはしみじみとね。わかる気するだろ? ほんとフビンなやつだよ。かとおもえば夜中にさ、寝てたかとおもえばいきなり「どわっ」とか大声あげてとびおきてさ。どうしたんだよってきくと「ピストルで撃たれる夢をみた」だって。よっぽどこわかったんだろうなあ。それから窓の外をぼんやり眺めながら、歌を歌ったりもしてたな。「夕やーけこやけえのー赤とーんーぼー‥」小さい声で歌ってるからきかれてないつもりなんだろうけど、耳をすますと、かすかにきこえてくるんだよ。消えいりそうな声で「負われーてみたのーはぁいつのー日いかー‥」おいよせよ、笑っちぁ悪いよ。かわいそうだろうが。
→こころあたり? うーん、そういわれてもなあ。もしかしたらあのテレビがよくなかったのかもしれない。たいした番組じぁなかったんだよ。どっかの山のキコリがでてきてさ、木を切ってるとこをエンエンとうつしてるだけの番組なんだ。夜中で、ビールを飲みながらおれたちはみてたんだけど、キコリが画面にあらわれたとたん、なにがおもしろいのか沖山ときたらくいいるように真剣にみはじめちぁってさ。すいこまれるみたいにしてテレビをみつめてて、番組が終わってからおれにきくんだよ。「ああいう暮らしをどうおもうか」って。「おまえにむいてるかもな」とかおれがいい加減なことをこたえたら、あいつ、それきり黙りこんじぁって。
→そのときあいつがなにを考えてたのかなんてもちろんおれにはわからない。だからおれのほうからきいてみたんだよ。おまえはあのキコリをどうおもうのかって。そしたらあいつ、妙なことをいいはじめちぁったんだよ。
「どれだけ女にもてたかとか、どれだけカネをもうけたかとか、どれだけ有名になったかとか、どれだけ親孝行したかとか、どれだけアタマがよかったかとか、どれだけこころが美しかったかとか、どれだけ人類の発展に尽くしたかとか、どれだけえらいことをしたかとか、そういうのって、なんの関係もないんだよな」
→わかんないってば、なんのことかなんて。おれにわかるわけないだろ。わかんないけど、あいつも微妙なとしごろなんだよ。いろいろと考えこんだりする季節なわけじぁん。だってそうだろ、なあ、わかってやれよ。ま、なにを考えてるかはともかく、あんまりよくないことを考えてることだけはたしかだし。それでなくたってあいつ、様子がおかしくなりつつあったしさ。だからおれも少し心配になってね。またきいてみたわけ。「じぁなにが関係あるんだよ」って。だけどあいつはなんにもこたえなくて、クビをふってちからなくわらうだけだった。
→そして次の日におれが学校から帰ると、あいつがいなくなってたってわけなんだ。部屋んなかはきれいに掃除してあってさ。うん、その日から行方しれず。けっきぉくおれんとこにいたのは二週間くらいかな。カネはまだまだ残ってたなあ。うそじぁないって、なんも隠してなんかないって、ほんとにとつぜんいなくなっちぁったんだよ。
→ん? 書き置き? まあいちおうあるにはあったけど、あれって書き置きなのかなあ。机のうえにおいてあったんだけど、だって、書き置きというにはあまりに愚かでさあ。まあ、あいつらしいといえばいえるけど。え、みたい? ちぉっと待ってて、探すから。えーと、どこおいたっけな、あれ、ねえな、たぶん捨ててないとおもうけど、あっ、あったあった、これこれ。はい。
深さないでください
沖山
この話の教訓
「だれが深すか」
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