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十日ばかりまえにクルマの免許のかきかえというのにいって、そういえばおれはこの生涯においていまだにゴールドカードというのをもらったことがないのだと気づいたのであった。なんとっ。個人的には模範的優良ドライバーのつもりでいるんだけど、どうもそうおもっているのはおれだけであるらしく、いまだに一般ドライバーのままなのであった。事故というのはやったことはない。でも違反のほうがだめで、つねになにかの減点状態にある。いわゆるペーパードライバーのひとは、ある期間をすぎればしぜんとゴールドカードになるわけで、あれはちょっとうらやましい。というか、ずるい。いまの減点法みたいなやりかただと、ハンドルをにぎる機会のおおいにんげんが不利なわけで、そのへんはどうにかならないのか。違反をしたら減点をされるのはしかたないにしても、たとえば、マナーのよい運転をしたり、こころの清いおこないをしたりしたときには加点してもらえるとか、そういうふうにはできないのだろうか。おまわりさんだって、いつもいつも減点をしてみんなからうらまれてるばかりじゃなくて、たまにはだれかのクルマをとめて、「いまみてたんだけど、さっき対向車に道をゆずったのは、すがすがしい運転でした。こころがあらわれるようでしたよ。というわけで、ハイ、これをどうぞ」とかいいながらポイントカードに「よくできました」のスタンプをおしたりとかしてみたいんじゃないかとおもう。どうなんだろう。やってみたいよね? おれはもちろんおしてもらいたい。そして、そんなふうにポイントをせっせとためて優良ドライバーに認定されるほうが、やりかたとしてはすじはとおってるとおもう。ハンドルをにぎらずにいれば優良ドライバーになれるというのは、おかしいよなあ。だいたいそれはドライバーじゃないだろう。なあ?
二十代の前半ごろの話なんだけど、元旦にアラシがきたことがあった。ともだちと四人ですごしてて、やがてヒマをもてあましたおれたちは、一台のクルマにのりこんでドライブにでかけることにした。暴風雨の正月にドライブにいこうなんておもいつくやつはあまりいなかったらしくて、道はおれたちの貸し切り状態だった。そのうちつくばのひろいまっすぐな道にでた。アメカゼはどんどんはげしさをまし、まともに前方もみえないようなクルマのなかでおれたちは興奮状態におちいってしまった。わけのわからないことをわめいてわらいころげ、それにつれてクルマはどんどん加速するのだった。そのうちスピードが時速100キロをこえたあたりで、運転しているやつがみんなに、ハンドルがきかなくなってることをおしえてくれた。大雨の日にスピードをだすとブレーキもハンドルもきかなくなる。教習所でおそわるハイドロなんとかいうやつだ。おれたちはおおいにめでたいとかんじ、もっとスピードをだせとはやしたてた。かんがえてみると、このときクルマにのりあわせていた全員の知能指数を合計しても、三桁にはならなかったかもしれない。かけあわせてもだめだったかもしれない。雨中を爆走するハタ迷惑なクルマなのだった。するととつぜんドカンとなにか破裂するようなおとがして、対戦車砲かなにかをうちこまれたみたいな衝撃があって、クルマが蛇行しだした。運転者はハンドルと格闘をおっぱじめ、窓ガラスのむこうの景色はまるで小舟にのってるみたいにみぎひだりななめにゆれて、からだは前後左右にジェットコースターにのっけられたみたいにふりまわされ、うげげえええええっとさけびごえをあげてるうちにやがてクルマは中央分離帯にのりあげて、そこにあった灌木をばたばたばたばたばたと十本ほどなぎたおしたところで気がすんだらしくて、やっととまりくさった。さすがにそこまでくるとわらうやつはいなかったです。そんでおたがいの生存を確認しあって、ぐずぐずとクルマをおりてようすをみると、まえの片側のタイヤが消滅していた。バーストしたらしい。やれやれ。おれたちはためいきをもらして、それから、公衆電話をめざしてとぼとぼとあるきだした。一月イッピだというのに雨は盛大にふっていて、風は暴力的にふきあれていて、南極探検にでかけたアムンゼン隊みたいにおれたちは大自然の猛威というものとたたかいながら、つくばの道をあるきつづけたのであった。この話の教訓。大自然をあまくみてはいけません。という話ではなくて、いまはいい時代になったのだから、みなさん携帯電話はつねに携行するようにしましょう。という話でもなくて、このとき運転していたやつはそのごトカイにすむようになって、ここ十年くらいほとんど運転なんてしたことがなくて、とうぜんゴールドカードなんだそうだ。あんのじょうゴールドカードなんだそうだ。どうおもうよ諸君。諸君もしみじみとおもうだろう? おれもおもう。ゴールドカードっていうのは、あれはぜったいおかしいって。なあ? おかしいよ。
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