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よのなかなにごとにつけて「結果」というのはそうなるにいたるまでのながい「みちのり」というか「過程」というのがその背後にかならずある。そしてその「過程」をしらずにいきなり「結果」だけをみせられるとなにがどうしてそういうことになってしまったのかさっぱりわからずただ呆然とするしかないときがある。たとえばおれが中学3年のある土曜日の午後、おれの家のヤネでピチローとみんなからよばれていた同級生が全裸でおどっていたことがある。夕日を背にうけたピチローはスッポンポンでヤネに立ち、腰に手をあてて尻をふっていた。運悪くたまたまそこへ帰宅したおれの母親がこのフルチンダンサーに気づいて玄関のところから見上げて「あんたなにやってんの?」と冷たく問いかけたわけだが、このときの我が母の心情がまさにそういうものであったろう。なにがどうなってそういうことになったのか、さっぱりわからなかったであろう。もちろんこの事態にも過程というのはあるのであって、ようするに二階のおれの部屋でみんなで花札やってて、それで大負けしたピチローが罰ゲームでスッポンポンにされて二階の窓からヤネにのぼらされただけという、じつに単純明快な話なのだが、たんに罰ゲームの結果だけみせられた母にはさっぱり事情がのみこめないのも無理はない。無理はないんだけど理由をきいてみれば「なあんだそういうことなのか」とわらってしまうようなことというのはよくある話で、つまりおれはなにがいいたいかというと、せんじつニョーボのブラジャーを装着して自宅のキッチンで冷やし中華をすすっていたら外出していたニョーボがかえってきてTシャツ姿のおれのムネが異様にふくらんでいるのに気がついて「あんたそのムネどうしたの?」と呆然とされてしまった。ニョーボもびっくりしたろうがこのときはおれも相当にびびった。たしかにこの結果だけをみせられたきみはおどろくかもしれない、それはわかる、だけど、こうなるにいたるにはそれ相応の過程というものがあるのであって、つまりあれだ、たのむ、おれの、おれの、おれの話をきけ〜になってしまった。そりゃふつうのブラジャーだったらおれも着用なんてしたりしない。おれがつけてたのはただのブラジャーではなくてヌーブラなのだ。ヌーブラというのはいぜんからかねがねおれはフにおちないとおもっていた。なんであれは落ちないのか? どうみたって万有引力の法則というか、重力というか、Gというものにさからっているようにみえる。にもかかわらず、なんで落ちないんだ? ふしぎだろうアレは。どうなってるんだ。という疑問がつねづねあって、たまたま洗濯を終えたニョーボのヌーブラが窓ぎわに干してあったので、ニョーボのルスをこれさいわいと身につけてみたわけである。つまりは好奇心なのだ。または探求心とでもいおうか。未知なるものの仕組みを解き明かしたいというその一心なのだ。そういう崇高な動機によってつきうごかされたおれは、窓ぎわでひらひらしているヌーブラをひとつ手にとり、Tシャツをまくりあげてペトっとムネにあててみたわけである。うわ。つ、つめてえっ。なんだこりゃ。うひ。うひひひひ。なんだかフシギな感触だな。くすぐってえぞ。うひ。あ、でもなんか、たしかにピトっと吸い付いてる。おりょ。落ちないよこれ。フンフンっ(上半身をゆさぶってみる)。うわ〜、くっついたまんまじゃん。すげえなこれ。をを。もう片方もつけてみよ。ぺた。ほほ〜。なんか、いいかんじじゃんこれ。ついでにホックもとめてみたりして。ぼち。ははは。おっぱいだおっぱい。おっぱいできちったよ。うはははは。オパ〜イ。ちょっと鏡にうつしてみよ。うりゃ。いや〜ん。あたし、おっぱいあるう。うふふ。ぱち(おっぱいを両手でもちあげつつ鏡にウインク)。すごおい。ちゃんとムネふくらんでるわ。すごいすご〜い。ヌーブラすご〜い。ほんとにくっついたままなんだねえ。動いても落ちないのかなあ。フンフンっ。あらやだ。ちょっとまって。あたしったら、おひげが生えてる。やだわ〜、こんなんじゃ女の子失格。そらなくちゃそらなくちゃ。ソリソリ。これでばっちりね。うふふ。じゃあちょっと、お掃除でもしてみようかな。ふっふっふ〜ん(ハナウタ)。ぶお〜(掃除機をかける音)。ちら(ムネのあたりをみおろす)。うふふふ、ぜんぜんびくともしないわ。うふ。あ、お布団もほしとこ。せっかくいい天気なんだし。よいしょっと。さっさとひっこし、さっさとひっこし、わかった?(ほした布団をたたくときにうたううた)ふう。ちょっとおなかすいちゃったな。冷蔵庫に冷やし中華があったわよね。あれ食べよっと。ふっふっふ〜ん。あらやだ。キュウリがないわ。まあ今回はキュウリなしでもいっか。ふっふっふ〜ん。できたっと。ずるずる。あ、おいし〜。やっぱシマダヤおいしい〜。うっふっふっふ〜ん。と、ごきげんで冷やし中華をたいらげているところにニョーボがかえってきたと、こういうわけなのであった。このころになるとおれも精神的にぶったるみきっていて、じぶんがろくでもない格好をしていることなどツユわすれ、ごく自然にムネのあたりをふくらましたまま冷やし中華をくっていたのだが、これをみたニョーボの不審そうなメツキによってハっとわれにかえった。や、やっべ〜。どうかんがえてもまずいよこれ。なんていってごまかしたらいいんだオイ。うええええええ。とタキのごとき冷や汗を噴出しつつ、いや、あ、あのさ、にゅ、にゅにゅにゅにゅ、ニューブラつけてみたんだけどねニューブラ、いや、ヌーブラ、これってほら、ふしぎじゃん、なんで落っこちないのかな〜とおもってためしにつけてみたんだよ、あは、あはは、とまったく余裕がなかったのでおれはうろたえつつそのまんまの、オチもなんもない説明をしたのだがニョーボはおれの話をさいごまできかぬまままた外出して、いまだかえってきません。もう二週間になります。どこいっちゃったんでしょうか。もしどこかでこれをみていたら、心配している、すぐに帰ってきてくれ。問題はすべて解決した。すぐ帰れ。というのはうそで、家出はされませんでしたがそのかわりすごく怒られました。あはははは。は〜。
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