とり  ぶらっくたいがあ


→いつもおとなしいミナちゃんは四さい。幼稚園で、今日のお弁当にはいってた一尾のエビに悪戦苦闘してた。まわりの子たちが次々とお弁当をすませて遊びはじめたのに、ミナちゃんはひとりぽつんと弁当箱に残ったエビのまえ、だまりこくってる。
「どうしたのミナちゃん、エビがきらいなの?」
先生がみかねて話しかけると、うん、とミナちゃんはうなずいたあと、「でもね、ぶら、ぶら‥‥、ぶら‥‥。ぶら?」といいだした。なにをブラブラいってるんだこの子は、とおもったものの、すぐにひらめいて「ブラックタイガーのこと?」ときいてみると、ミナちゃんはおおきな目をさらにおおきくみひらいて、ラン、とかがやかせた。それでピンときて「エビはきらいだけど、ブラックタイガーはすきなの?」とたずねると、うん、うん、そうなの、というふうにミナちゃんはなんどもくびをふる。みれば、弁当箱のなかのエビがまさにブラックタイガー。
「あのねえ、ミナちゃん、よかったねえ、だって、そのエビは、ブラックタイガーだよ」
そう教えてあげると、ミナちゃんは「えっ?」という顔をして、それからしばらく迷ったのちに、えいっとばかりにエビをくちにほうりこんだ。
→十分後。「エビ、たべられてよかったね」先生がミナちゃんに話しかけると、ミナちゃんはなにもいわず、かわりにちっちゃな口をおおきくあけた。なかにはまだエビがまるまる残ってる。ずっとそのままでいるつもりなんだろうか。
→三十分後。「エビ、もうたべた?」先生がたずねると、また口をあける。エビはまだ口のなか。「いいかげんたべちゃいなさい」あきれてさとすと、「もうくさっちゃった」という。お口のなかでくさっちゃったからたべられない、といいたいらしい。これには先生もおもわずうけてしまう。「まだくさってないよ、ほら、たべちゃおう、もぐもぐもぐ、ごっくん」そんなふうになだめたりすかしたりだましたりはげましたり、やっとミナちゃんにエビをたべさせた。
→降園時間。おしまいに、ホームルームがあって、先生からのお話をみんなで静かにきいていたとき。
「ぶらああっく、たいがああああ」
だれかのおおきな声が、教室にひびいた。なんだなんだとおもってみてみると、声のぬしはミナちゃん。ふだんおとなしいミナちゃんがなにをかんがえていたのか、とつぜんそうさけんだので、先生も子どもたちも、あっけにとられてしまった。一瞬の沈黙があって、それからのち、どっとみんなでわらいだした。ミナちゃんはといえば、顔をかがやかせて、にこにこしてたんだとさ。
→そんなこんなで、あの幼稚園というところは、あれこれとエピソードにはことかかないみたいで、なかなかたのしそうです。

[18,11,1999]