とり  WMZN5

 やあみんな元気かい。おれがぽいうだ。こころはいつもオーバーヒート、こんやもしばらくつきあってくれ。
 じつはおれにはラジオ局の仕事のほかに、もうひとつ仕事があってね。ホウレン草のカンヅメをスーパーマーケットに配達する仕事なんだ。ホウレン草がなくちゃじんるいがほろんじゃうからね。それは神聖な仕事さ。局の連中にはないしょなんだけど、この仕事がおわったあと今夜もおれはハンドルをにぎる。なにしろおれは胃袋のなかで幽霊を三匹もかっててね、こいつらがよくくうんだ。あまりにくうんで、局の給料だけじゃやしなってやれない。それでしかたなくおれはホウレン草の仕事もしてるってわけだ。タフなじんせいだろう?  きょねんのいまごろ、いや、もうすこし年末にちかかったな。雪のふる深夜、いつものようにトラックをはしらせていると、道のまんなかに、おかしなじいさんがたっていた。あわててトラックをとめて、たずねると「ルドルフがハラをすかせてうごけないんだ。すまんが、あんたのホウレン草をすこし、わけてくれんかね」と、トラックのボディーにえがかれたカンヅメの絵をゆびさして、わけのわからないことをいう。それよりじいさん、あんた、こんなさむい夜中にひとりぼっちでいて、かえるところはあるのかい? よかったらトラックにのせて送ってやるよ、とおれは提案したんだけど、ルドルフさえ元気をだしてくれればだいじょうぶだ、とさらにわけのわからないことをいう。やけにりっぱなヒゲのじいさんでね。そのヒゲにめんじておれは、ホウレン草のカンヅメをみっつ、わけてあげることにした。ひとつはルドルフ、もうひとつはじいさん、あんたに。そしてさいごのひとつは世界のために。これはおれのカンヅメじゃないんだけど、たいせつにたべてくれよな、じゃ、ルドルフによろしく。そういいおいてトラックに乗り込もうとすると、じいさんによびとめられた。あんたはいのちの恩人だ、こんやねむるまえに、枕元にくつしたをぶらさげておいてくれ、という。まったく、さいしょからさいごまでわけのわからないじいさんだ。おれはあいまいな笑顔をうかべて、配達の仕事にもどった。ギアをいれて発車しようとすると、くつしたをわすれるなよう、とじいさんのさけぶこえがきこえた。
 仕事をおえてアパートにもどって、シャワーをあびて、ねむるまえに、じいさんのいってたことをおもいだした。それでおれはためしにくつしたをベッドの柱にぶらさげておくことにしてみた。ちょっと気になるじいさんだったからね。くつしたをかたほう、ぶらさげておいたのさ。そうしてあくるあさおれが目をさますと、くつしたのなかには、紙きれが一枚はいっていて、その紙にはただ一行「さようなら」とかかれていて、そのころ目をさますといつもおれのとなりでねむっている女の子がいなくなっているのに気がついた。
 やれやれだね。まったく、おかしなじいさんだったよ。ねえみんな、あのじいさんは、なにがおれにとってさいこうのプレゼントなのか、どうしてわかったんだとおもう?
 オーケー、くだらないおしゃべりはこれくらいにして、曲にいこう。こんやもなつかしいやつをかける。クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングで『キャリー・オン』。

[08,12,1999]