とり  ダルマさんがおこった

→もしかしたらきみはコークスを知らないのかもしれない。ダルマストーブさえしらないのかもしれない。ふふふ。などとわけのわからないことをつぶやきながらあらわれるおれがぽいうであります。おれは教室に置かれたストーブの燃料として、石炭 → コークス → 石油という変遷を体験した世代だ。もちろんダルマストーブだってしっかり面倒をみた。午後になって日がぬるくなってから、しろくなった石炭の燃えかすをストーブ用のシャベルでかいだす作業だって経験している。これをやるまえには、まずストーブに水をそそいで消火しなければならない。その水の分量がむつかしい。すくないとさいごまで消火されないし、おおいと掃除がやっかいになる。そうしておれはストーブ当番をなんどか担当するうち、やがてその分量を状況にあわせてしっかり見切れるようになった。エキスパートというやつだ。いわば百戦錬磨のツワモノだ。ほんじつは、ダルマストーブ戦線の戦友のご同輩のみなさんに、ささやかなわが戦果を紹介したい。
→そもそも十歳くらいの男の子というのは、ヒマをもてあますと、ロクなことをしでかさない。これはイニシエからのシンリである。ロクなもんじゃない。学校制度というのは、じつは子供を集めてヒマをもてあまさないように見はっておこうという大人の知恵なのではあるまいか。ひそかにおれはそう考えてる。困ったことにその日われわれは5年2組の教室でヒマをもてあましていた。なぜか教室には男の子しかいなかった。先生と女の子たちがいなかった。男子に聞かせるにはまだはやい内緒話を、どこかでしていたのかもしれない。教室のすみでは、ダルマストーブがしゅこしゅこと音をたててコークスに潜在するエネルギーを熱に変換していた。その横にバケツいっぱいのコークスがあった。そしてわれわれは、ヒマをもてあましていた。だれがはじめたのかはおぼえていない。とにかくそれは、はじまっちゃったのだ。つまり無目的に、ありったけのコークスが、ダルマストーブのなかに投入されはじめてしまったのだ。たぶんあとさきのことなんか考えていなくて「そういうことをしてみたらどうなるか」という純粋な好奇心からそれはなされたのだとおもう。やがてストーブは、しゅごー、ほげほげほげほげぐわんぐわんとすごい音をたてはじめた。それでもわれわれはコークスを投入する手を休めなかった。教室にいた全員が、なにごとかとストーブのまわりに集まってきた。バケツいっぱいのコークスを使いきってしまうと、われわれは気がすんでしまい、もうストーブのことはどうでもよくなった。めいめいが思い思いの場所に帰ってそれぞれの娯楽を再開した。
→ところが、それから5分ばかりしたころ、ストーブに異変がおこった。しゅわ〜っと間断なく音をたてはじめたのだ。すごい音だった。おどろいてみると、ストーブが、あざやかなオレンジ色になっていた。鉄が熔けたときの色だ。つつけばふにゃっとへこんでしまいそうだった。あわわわわ。一同びびりながらぞろぞろとストーブのまわりに集まってきた。だが、熱くてそばには近寄れない。事態は、もはやわれわれにはどうすることもできないことになっているらしかった。だれかがおそるおそるシャベルの柄をのばし、ストーブのうわぶたを開けた。するとそこから、どわ〜〜〜っと炎がたちのぼり、天井まで達した。竜みたいなのだった。「こら火事になるなあ」だれもがそう考えた。そのときだれかが、防火用水をストーブのなかにぶちまけてくれた。勇気のある行いだ。このときわれわれの小学校が火災からまぬがれたのは、ひとえに彼のおかげである。ストーブはえらい音とケムと蒸気をあたりにまきちらして、やがておとなしくなった。ふと見あげれば、ストーブのうえの天井がクログロと焦げていた。その焦げあとは、ひそかにわれわれの誇りになった。

余談:とうじ、このほかにわれわれが開発した遊びに「サンガクブ」というのがある。ナワトビにつかうナワを何本もつなげて学校の屋上から垂らし、サンガクブ、サンガクブととなえながらこれをのぼりおりするのである。冒険野郎なのである。だけど先生にものすごく怒られた。

[12,12,1999]