とり  とつぜんネズミの話

 おれの家は田んぼのなかにたっていて、あたりにはあまりネズミがいない。
「このへんにはね、イタチがたくさんいるから、だからネズミがでないんだよ」
とおれの母親はいう。母親は本気でそう信じこんでるみたいなんだけど、どうもウソくさい。だってイタチなんか、ネズミよりも見かけない。そのかわりにこのへんには、ヘビがいるから、だからネズミが少ないのではないか、とおれは考えている。
 そういう、あまりネズミをみかけないところで育ったので、高校を終えて東京で遊ぶようになって、あそこのネズミの多さにはびっくりした。「東京は世界一ネズミが多い街だ」とは聞いてたけど、あんなに多いとはおもわなかった。おれが通ってた池袋なんて、もう、ネズミの巣みたいなものだ。あちこちをネズミがかけずりまわってる。だいたい池袋の駅につくなり、ネズミが線路を走りまわってるのはどういうことだ? ああいうのって、だれもなんともおもわないのかな。ぶくぶくに太った巨大なネズミが走るのをみると、おれなんかはけっこうびびる。
 でも線路はまだましで、あるときなんか、山手線の電車のなかでネズミをみたことがある。そのとき車内はガラガラで、ほとんど乗客がいなかったんだけど、ふと気づくと、ちいさいネズミが床をうろちょろしてる。床に落ちてるセンベイのかすなんかをポリポリと食べてまわってる。注意してみてみると、電車のなかって、けっこう食べものが落ちているのだ。そういうのをあさっている。そして、つぎの駅に着いてドアがひらくなり、ネズミは、座席の下の鉄の板のむこうの空間へもぐりこんでいってしまった。どうやらそのネズミは、電車に住みついているらしい。
 さいしょにネズミを見たときは、おどろいてわが目をうたぐったけど、しかししみじみ考えてみると、電車というのも、あれはあれで住みごこちがよさそうな気はする。揺れるのをガマンすれば、食べものや飲みものはあたりに落ちてるし、冷暖房完備である。たいくつになったら、吊革にぶらさがって遊ぶことだってできる。いろんな町へいけるので、いろんなネズミとおともだちになれる。いやらしい猫やイタチやヘビもいない。人間がたくさんいるけど、そんなのは猫にくらべたらちょろいもんである。
 結論として。電車に住んでいるネズミって、わりかし多いのかもしれない。ふだん電車を利用する機会の多いかた、ハイヒールのかかとをかじられたりしないように、気をつけてください。

[30,01,2000]