とり  三帝会戦

「あの閻魔堂の中にかくれて待っていてくれ、俺が石松をうまくだまして連れて行く、ここまで行ったらお前が飛び出して名乗りをかけて石松に斬ってかかる、決して逃げねえ、きゃつは強いから、さあ来いと言ってお前っち相手に斬り合う、あんまり長くやってると、言っちゃ悪いがお前っちはやられてしまう、で、俺達七人が石松の後ろにまわって石さん、何だその野郎は、俺は助太刀するぜって、こう言って油断さしておいていきなり石松の後ろから‥‥」

二代広沢虎造「閻魔堂の欺し討ち」


その晩の月がしずんでつぎのおひさまがのぼって、そのおひさまがしずんで月がのぼってしずんでおひさまがのぼればつぎの週の月曜日。
予備校の授業がおわって勉強道具をかたづけてると、沖山が話しかけてきた。
「よ〜くりた〜。きょう、これからなんかすることあるのか〜?」
「図書室で勉強。世界史」
「ぷっはっはっは」
「はっはっはっは」
「それもいいけどさ、たまにぁ息抜きしろよ」
「なんだよ息抜きって」
「女紹介してやるよ、女」
「女? ほんとに?」
「うん。ほんと」
「かわいい?」
「おお、かわいいかわいい。かわいくって火い吹いてる。おまけによりどりみどりだ」
「むおっ♂」
「白十字でまちあわせしてるからさ、いこうぜ」
「うん。いくいく」
沖山につれられて白十字のバネのこわれたイスにすわりみ、わくわくしながらまってるとたしかに女があらわれた。
それも三人もあらわれたんだけど。
その三人ていうのが、ホタホタと備中とヒロポンでさ。
沖山とおれがならんですわってるむかいの席に、三人ならんで腰をおろしたんだ。
うわ、だっ、だましたなっ、と沖山をみると、もう、目がわらってるのね。
目が爆笑してるのよ。
‥まずい。
まずすぎる。
なにが起ころうとしているのかはわからないけど、とにかくなにか、たしかによくないことが起ころうとしてる。
おもわずおれは逃げだそうとしたんだけど、とたんに沖山にがしっとかウデをつかまれちぁってさ。
おれはこのときひとつ、たいせつなことを学んだね。
むかしっからの友人だろうとなんだろうと、とにかくだあれも信用しちぁならんということをね。
いやほんとメロスもさあ、友情だのなんだのいってる場合じぁないんだってこの生き馬のメをぬく世間てやつは。
なにしろへいきでひとを裏切って、おまけに目をかがやかしてほろんでくサマを見物するんだからおれのセリヌンテウスは。
なんだよこれはよ、だましうちもいいとこじぁねえかよ、なんてアタマをかかえたところでこえがした。

ちぉとあんたどういうつもりなの。
どういうってなんのこと。
いまさらしらばっくれんじぁないよ。あんた、備中になにしたんだよっ。
なにって、なんにもしてないよ。
しらばっくれんじぁないっていってんだろっ。備中をみてみなっ。
じー。(コップをみつめとるおと)
あんたがなにしたんだかしらないけど、備中がこんなんなっちぁったのは、あんたのせいなんだかんね、きぉうだって、ここまでつれてくんのタイヘンだったんだかんね、それもこれも、みいんなあんたのせいなんだかんねっ。
んな、おれはなんにもしてないって。ただ、備中の家に遊びにいって、それですぐかえってきただけだって。ね、なんにもしてないよね? おれのせいなんかじぁないよね、備中?
じー。
うぷっ。
とぼけるなってんだろっ。おまけにおまえは備中のとこで備中にひどいことしたあと、その足でモラシタの家にいって、モラシタともやっちぁったっていうじぁないか。
ぷひっ。
へ? な、なんでそんなことまで‥。
ケージのムスメをあまくみんじぁないっ。調べはついてんだよっ。あたしたちはねえ、みいんな高校の同級生なんだよ、同級生。
へ?
どー、きぅー、せー。きのうそんときの同窓会があって、モラシタにひさしぶりにあって話してみたら、なんだあ? すいど橋の予備校にかよってるう? イバラギからきてるくりたってのとつきあってるう? こないだチバの家までヤリにきたあ? ちぉっとまってよ、そのくりたつうのはあたしが備中に紹介したあの男のことじぁないかよっ。
いや、あのね、その件についてはね、あの、備中の家をおいとましたあと、な〜んかこのマチナミってしってんだよなあってかんがえて、そしたらおもいだしたのね、ああそうだ、ここはモリシタさんちがあるまちじぁないかって。そんでね、せっかくはるばるチバまできたんだし、ついでだからよってみようかなあと遊びにいったら家にいたからね、そんで、じぁちぉっとお邪魔しようかなあと、ええとね、ええと、おれはね、ただこう、みんなとなかよくしようと‥‥(^^)。
へらへらすんなあっ。
ひっ。
くひっ。
あんたねえ、ほんとにったく、どういうつもりなのよ、備中はねえ、とくべつなんだよ、ほかの子とはちがうんだよこの子は、あんたねえ、よくもよくもうらぎってくれたね、備中はもう傷ついてるなんてもんじぁないんだかんね、この責任はどうするつもりっ。どうしてくれんだよっ。
せせ責任ったっておれはそんなつもりは‥。
なかったってのそんですむとおもってんのそんでとおるとおもってんのっ。なめんじぁないよっ。だいたいあんたはねえあたしにも好きだとかいったことあったよねえ、それについさっき沖山くんからきいたけどこないだまでちぉっかいだしてたあの子もあんたにひどいことされて予備校こなくなっちぁったそうじぁないの、ほら、なまえなんつったっけ?
白都さんです。ハイ。
てっ、てめえ‥。
オラオラひとのせいにすんじぁない、ぜんぶあんたがわるいんだかんねあんたが。あんたのその見境のなさがぜ〜んぶわるいんだっ。
んな、あのね、おみせのなかで大声だすとほら、みんなみてるしね、予備校のクラスのひととかもほら、あそこにもいるし、あそこにもいるし、なんかみんなこっちみてるみたいだし、あの、もうちぉっと冷静に‥(^^)。
へらへらすんなああっ。
ひいっ。
あぐふうっっ。
プカー。ちぉっとちぉっとお、ほんとにもうすこし冷静になんなよお。
くちだししないでくんない。あたしはこの男と話してんだから。
そうはいかないよ、あたしだって関係あるんだから、プカー。
だったらあたしの話がすんでからにして。
話ったってさっきからこのひとをおどしてるだけじぁない。
おどしてなんかないよ。
おどしてるよ。だいたいあんたさあ、くりたくんのこと、なんか誤解してない?
そそそそそ、そーそー、誤解してる誤解してる。
あんたはだまってなさいっっ。
‥‥ハイ。
そんなねえ、いまさらそんな話をしてみたってこの男にはなんのことだかわかるわけないって。そういうやつなんだからこいつは。そんなことは承知のうえであたしはくりたくんとつきあってるんだから、いまさらあんたなんかに横からごちぁごちぁいわれたくないわよ。
なんだってええっ。
だいたいあんたはなんなのよ。くりたくんとなんの関係があるわけ。あたしたちには受験があるんだから、あんたみたいにヒマじぁないんだから、ヘンなことでよびださないでよ。
な、なんだってえええええっ。
(す、すげえ。ヒロポンに勝ってる‥)
おまえなんかのでるまくじぁないっていってるんだよプカプカー。
ふっ、ふざけんなあっ。

ちきう最大の決戦.gif


やめてよ大声ださないでよみっともない。
あたしがだれのためにここにきてるとおもってんの。あんたたちのためじぁないのっ。みいんなあんたたちのためじぁないのっ。
だ〜か〜ら〜、それが余計なおせわなんだっていってるでしぉ。だいじな話だっていうからきてみれば、ふっ。ばっからしい。ほっといてくんない? プカハ〜。
そっ、そうはいかないよ、あたしは備中の保護者なんだから。備中をこの男に紹介したのはあたしなんだ、だからなにがなんでもあたしはこの男に‥。
へっ。いいとししてなにが保護者だよ。そういえばこの子はむかしっからひとりじぁなあんもできない子だったのよ、勉強だけはやたらできたけど。小学校から一緒だからよくしってんだよ。たしかにこの子にも問題あるけど、だからってまわりにいる人間があれこれ面倒みすぎるからますますこういう性格になってっちぁうのよ。すこしほったらかしにして、じぶんのことはじぶんでやらせりぁいいのよ。
あ、あんたなんかにいわれなくたって、そんなことはわかってんだよっ。
じぁもうほっとこうよ。かえろうよ。
ちいっきしぉー、あったまくんなこの女ー。ビッチュっ。あんたこんなこといわれてハラたたないのっ。コップばかりみてないでなんかいいかえしなよっ。
うにょ。
なに、なんだって? もっとハッキリいいなっ。
死ぬ。
んぱふうっ。
死死死死死死死ぬって、あんたそんな大胆な‥。
死ぬの。
うぷぷぷぷ。
ちぉっと備中あんたねえこんなつまんないおとこにだまされたくらいのことでねえ死ぬなんてねえそんなバカなことくちばしっちぁダメだよっ。
じー。
ぎく。
じー。
そっ、そんな目でおれをみないで。
じー。
あがががががが。
うぷぷぷぷぷぷ。
ちぉっ。ビッチュウウウっ。
あら、死にたいってんだから死なしてやればあ。死なしてやりなよ。死ね死ね。
あっ、あんたねえ、ひとごとだとおもって無責任なこといってっけどねえ、備中ならやりかねないんだよっ。
でっきるわけないじぁん、こんないくじなしにい。
なんだってえっ?
なんだよ。やんのかよオラ。
ぎー。
ぎー。
じー。
ちぉちぉちぉちぉとまちなよみんな落ち着けって。
あんたはだまってなさいっっ。
‥‥ハイ。
ぎー。
ぎー。
じー。
‥‥‥‥。

聖セバスチアヌスの殉教.gif



以上が三帝会戦(ハクジウジのたたかい)の記録である。


たたかいの経過はその日のうちに予備校じうをかけめぐり、それでおれはもう予備校へはいけなくなってしまった。
おまけにホタホタはそれからというもの「ねえねえあたしくりたくんに遊ばれちぁったのよ」と得意満面いたるところで吹聴しまくったらしい。
これじぁおれはもう、すいど橋にだけはいけるわけがない。
つまりこのように列強三国の干渉をうけておれのつつましやかなささやかなきよらかな予備校人生はぐじぁぐじぁに蹂躙しつくされつくしてしまったという、この話はこれでおわりだ。
だけど、ねえメロス、そのころおれは知らなかったんだよ。
じんるい愛の話ね。
しらなかったんだよ。
そのころおれは、おれのじんるい愛はなるたけ多くの女の子たちに公平にそそぎこんでやんなきぁなんないもんだとばっかりおもってたんだ、てっきり。
じんせいっていうのは、じんるい愛の日替わり定食だとばっかりおもってたんだ、てっきり。
でもそういうのは、どうやら利根川のむこうじぁまずいことだったらしい。
知らなかったんだ。
まいったね。
ひとことでいって、そのころのおれは、あまちぁんだった。
右も左もわかんない世間しらずのおぼっちぁんだった。
そんなおぼっちぁんが怪獣や悪霊のハイカイする大都会をぼんやりうろついてたんだから、おそかれはやかれいたいメにあうにきまってるよな。
もしかしたらこれは、おこるべくしておこった不幸な事故だったのかもしんない。
だけどさあメロス。
ひとつききたいんだけど、なんで、おれたちの性器には互換性があるんだ?
なんでおれのチンポコは、だれにでもあてはまるんだ?
わかんねえよ。
いまだにわかんねえよ。
たぶん、バカなおれには、一生わかんねえんだろうな。

革命家.jpg


この話の教訓
みんなとなかよくするのはむつかしい

[11,05,2000]