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大学生のときに、アパートの部屋で、日中だらしなくねむっていた。十代の後半から二十代というのは、じぶんでも不思議になるくらいにねむれるものである。というか、ねむいものである。春は気ぶんがいいからといってねむり、夏は暑いからといってねむり、秋は枯葉が散るからといってねむり、冬はもちろん、さむいからといってねむる。そのころおれが起きだすのは、あまりにおなかがすいてあきらめてごはんをたべるときか、女の子との約束があるときだけだった。ような気がする。
それは夏の日で、だから暑いからという理由でねむっていたんだとおもうけど、ひるすぎにいちど空腹で目をさました。冷蔵庫をあけるとチョコレートがあったので、それを一枚たべてまたねむることにした。しばらくねむって、ふたたび目をさました。部屋のなかが殺人的な暑さになっていて、ねむるどころではなくなってしまったからだ。とおくに蜃気楼がみえるくらいの暑さだった。ベッドの、それまでおれがねころがっていた場所は、汗がおれの形にのこっていた。夏バテのいぬみたいな呼吸をしながらおれは、すっぱだかのまま、ベッドのうえにおきあがった。するとしろいシーツのうえにあかい点があらわれた。それはみるみるうちにひろがっていった。あかくなりつづけるシーツに、なにが起きたのかわからず、寝ぼけたあたまですこしぼんやりとして、それからじぶんが鼻血をだしているのに気づいた。しんじられないほどの量の血だった。おれはそれまでのじんせいでそんなにたくさんの出血をしたことはないし、それいごのじんせいでもない。あまりに大量の出血におどろいて気がとおくなり、そのあとはまたねむってしまった。
つぎに目をさましたのは夕方になってからである。目をさまして、ベッドのうえの巨大なあかいシミをみてまたびっくりすることになった。それからアタマをかかえた。女の子があそびにきたときに、なんて説明したらいいんだろう? いったい、こんなベッドにだれが同衾してくれるだろう? アタマをかかえるしかない。男のともだちはかまわない。むりやりベッドをみせて「これからはおれをバージンキラーとよべ。うははは」とわらうくらいはいくらでもできる。でも、女の子にそんなことをしたら、なぐられてまた鼻血をながすのはめにみえている。かといって、真実を話したところで(チョコレートをたべて昼ねしてたら鼻血がでちゃってさあ)、ひごろのおこないからかんがえて、あまりに信ぴょうせいにかける。われながら「もっとましなうそはつけないのか」という気がする。いったい、真実を話してどれくらいの女の子が信じてくれるだろう。心配のあまりそのあとおれはねむれない夜をあかすことになった。ほんとはヒルネのしすぎでねむれなかっただけだけど。
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