[2000年10月1日] ハリボ〜
湯麺。春巻(ひる)
コロッケ。めし(ばん)

●こわい映画といってまっさきにおもいだすのは「危険な情事」である。こわいだろう、これは。こんなおっかない映画、ほかにないだろう。と、つねづねそう力説してるんだけど、なかなか賛同してくれるひとがいないのは残念なところである。それどころか「あんなのなにがこわいんだ」というふうにいわれてしまうこともあって、かなしい。たしかにひとによって恐怖のツボというのはちがうので、しかたないめんはある。でも、だれになんといわれようともこわいものはこわいんだからしょうがない。「危険な情事」は正真正銘のホラー映画です。ハリボーです。だれがなんといおうと。おれはレンタルビデオでみたんだけど、どういう話なのかしらずに、つまりハリボーなのだとしらずにみてて、だからさいしょに「ごめんねえごめんねえごめんなさいねえ」とめった切りにしたてくびをみせられる場面では、腰がぬけるほどびっくりした。ぬけるどころか、腰からしたが影のように消えてしまったかとおもうくらいびっくりした。どうじに、総身の毛根がぱかっとひらいてしまったかというくらい恐怖した。いちどそういうおもいをさせられてしまうともうだめで、そこからさきは、おっかなさのあまりなみだぐみながらみてた。おれのほうこそ「ごめんなさいごめんなさい、もう二度としません、ごめんなさい」と画面にむかってあやまりながらみていた。余談だがどうもおれはあまりにこわいとあやまるヘキがあるらしい。二十歳のころにうまれてはじめてジェットコースターというやつにのったときも、のりながら「おれがわるかった、おれがわるかった」とさけびつづけたらしい。おれには記憶がないのでわからないのだが、いっしょにのってた連中がそうおしえてくれた。かれらの瞳のなかから、もともと消えかけていたおれへの尊敬の念のともしびというものがついにいっさい消えてしまったのはいまさらいうまでもない。
●あとこわかったのは「レイジング・ケイン」である。そういう映画があって、これもレンタルビデオでみたんだけど、どうしようもなく救いようもなくこわい場面というのがあって、それはおもい病気で入院中の奥さんの、病院のベッドのかたわらでダンナが女医さんとキスするところである。奥さんはねてるもんだとばかりおもってダンナさんはそういう狼藉をはたらいちゃうんである。ところがじつは奥さんはおきていて、それをじいい〜〜っとみてるんである。ものもいわず、ただじいい〜〜っとみてるんである。こわいだろう、これは。ひゃっぺんあやまってもあやまりたりないくらいおっかないだろう、これは。常識はずれにもホドがあるくらいこわいだろう。と、これもつねづねそう力説してるんだけど、あまり理解されない。「それのどこがこわいんだ」とつきはなされてしまう。どうも世間のひとというのはホラーというものの真髄をわかっていないからこまる。って、いつからおれはホラー評論家になってしまったんだかしらないけど、とにかくこの場面は、もう二度とみたくないくらいハリボーだ。テリボーだ。
●しかし、こうしてじぶんがこわいとおもう映画をあげていくと、たしかにじぶんの恐怖のツボというものがみえてくるような気がしてなかなか興味ぶかい。どうやらわたくしは女性がこわいみたいです。はあ。心霊現象とかジェイソンとかフレディーとかよりも、市井の、ありきたりの女のひとがこわいみたいです。はあ。いやべつに落語の饅頭こわいをやろうとしてるんじゃなくて、どうもそういう傾向があるらしい。しかし、こういう傾向というのはたぶん、それまでのじんせいがふかくかかわってつくりあげられてきたのだとかんがえると、ちょっとよわる面はある。いまあげた映画にしても、子供のころにみたらそんなにこわくはなかったろうともおもうからだ。こわいツボというのはかわっていくものなのかもしれない。そういえばおれがいままで体験してきた本当にあった怖い話といえば、たとえば夜中に「これから自殺してやる」という電話をされたりだとか、「ひとでなし」と一語だけ書かれた手紙を送りつけられたりだとか、そんなんばかりである。もちろんこれはいまとなっては、あれは心霊現象だったのだとして結論づけるしかないような、背筋も凍る恐怖体験だったわけで、おもいだしだけで身の毛もよだつおもいがするんだけど、でも小学生のころのおれだったら「そんなのなにがこわいの?」とくびをひねったことだろう。
●あのころにかえりたい。

●そんなわけでオリンピックがおわってしまいました。わたしがこんかいのオリンピックでもっとも印象にのこったのは、重量挙げの選手でバーベルをもちあげるときに「ヤバダバドゥ〜」というかけ声をかけたひとがいることです。いや、うそじゃないって。ほんとにいたんだって。ほんとに。おれ、テレビの総集編でみたもん。「ヤバダバドゥ〜」っていいながらバーベルをアタマのうえにもちあげたひと。みずから石器人だとみとめてどうするんだ。ウエイトリフティング。やはりきみたちはおかしい。ぜったい、なにかおかしい。
●次回はぜひ「ププッピドゥ〜」でおねがいします。

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