[2000年10月9日] はなのしたをのばしたくなかった男
鮭のやいたの。なっとう。なまたまご。めし(ひる)
ちゃんぽん(ばん)

●テレビのコマーシャルで疑問におもっているのがあって、そんな話があるかとみるたびにおもうんだけど、けっこういぜんからやっていて、いまだにやっているということは、つまりあれはそういう需要があるんだろうか。あのコマーシャルをみて「なるほど」と感心し、「これはぜひおれもかわねば、そなえておかねば」と購買意欲に火をともすひとがいるから、それであのコマーシャルはいまだにつづいているんだろうか。しかし、と筆者はおもう。いかによのなか筆者にははかりしれないような謎でみちみちているからとはいえ、そんなことはありえないという気がしてならない。あんなやつはいねえよなあ。あれはありえねえよなあ。もしかしたらああいうひともどこかにはいるんだろうけど、でもまずいねえよなあ。とみるたび筆者が疑問をかんぜずにはおれないコマーシャルというのは、ヒゲをあたっているときに暴漢におそいかかられて、ヒゲソリがヘンな方向にすぱっとうごいてしまうんだけど頬には傷ひとつついてなくて「う〜ん、きれてな〜い」と禿頭のひとがうなるあれです。ありえねえよなあ。そもそも洗面所にいるところをだれかにおそいかかられるというのがかなりありえないところにもってきて、おそわれた直後にまずヒゲ剃り跡に傷がついてないかどうか確認するというのがありえない。おまえさあ、「きれてな〜い」とかへたな日本語で感心してる場合じゃなくて、念のためにぶっとばした暴漢のクビをすこしきつめに締めておくとか、なんのうらみでここにきたかとつめよるとか、うしろでにしばって警察に連絡するとか、おしおきに逆モヒカンにそりあげてやるとか、そんな鏡をみてひとりごちるまえにしておくことが山のようにあるだろうとおもうんだけど、コマーシャルをみるたびにおもうんだけど、でもこういうことをいいだすひとがおれのまわりにまったくいないというのは、つまりあれは日常茶飯の出来事なんだろうか。よくある話なんだろうか。みんなあれをみて「お、いいなあれ。おれもあのヒゲソリかわなくちゃ」とおもうんだろうか。そんな、みんなしてゴッドファーザーみたいなことに日本はいつのまになってしまったんだ? いつのまによのなかそんなあぶないことになってしまったんだ? よくわからないけど、すくなくともおれは、いままでヒゲをあたっているところをだれかにおそわれた経験というのはないです。ヒゲをそってなくてもだれにもおそわれません。ヒゲをそってるときなんて、いよいよだれにもおそわれません。こんりんざいありえません。だから、あのコマーシャルをみるたびにわけがわからない気ぶんにさせられてます。
●とかなんとかおもっていたら、しっかりときょう、はなのしたをヒゲソリで切ってしまった。すぱっと。これでおれもイタリアンマフィアの仲間入りですね。えへん。などといばれるような状況ではまるでなくて、そもそもおれは入浴時にヒゲをあたることにしてるんだけど、いちおう順番があってね、アタマの毛をあらったあとにヒゲをそるんだけど、ちょうどきょうヒゲをあたっているときにびっくりすることがあってね、あのね、ごきぶりがいたんです。風呂場に。しかも、よりによってわたしが鏡をみてヒゲをあたってるさいちゅうに、鏡のしたのところをするする〜とはいずって、自己の存在をアピールしてくれたんです。入浴時といえばもう、一日のうちでいちばんぶったるんだ精神状態にあるわけで、たるみきっとる状態にあるわけで、そんな無防備なところにいきなりごきぶりがあらわれたもんだからびっくりして、ヒゲをあたるてもとがくるったのか、はなのしたがくるったのか、それはいまとなってはさだかではないんだけど、とにかくはなのしたを切ってしまった。もとよりながいはなのしたがいよいよながくなってしまった。しかもこまるのは、ごきぶりがめのまえにいるのに、おれは丸腰なんである。風呂場なんだからあたりまえといえばあたりまえなんだけど、武器をまったくたずさえてないんである。たずさえるいぜんに、すっぽんぽんなんである。こんな強敵をまえにして、素手でどうやって立ち向かったらいいんだ? いや、厳密にいえばたしかに素手ではない。手にはヒゲソリがある。でもなあ。ヒゲソリでごきぶりに戦いをいどむというのも、なんかちがうよなあ。たぶんそれはちがうよなあ。しかもフルチンだしなあ。とこまっていると、テキもしょせんごきぶりである。みずからスコスコとあたりをはいずって、なぜかボディーシャンプーの容器の裏側にもぐりこんでしまった。本人はかくれたつもりならしいが、とんで火にいる夏のむしというか、秋のゴキである。またうまいぐあいにこのシャンプーがポンプ式なもので、ねらいをさだめてそうっとポンプを押してやると、みごとにごきぶりにシャンプーの液体が命中した。ごきぶりはあわててにげだしたが、もがけどすすまず、とどめにお湯をかけて大量にあわだててやるといくばくもなく絶命した。けっこうシャンプーというのも対ごきぶりの武器として強力なものがあると認識した一夜であった。ていうか、ごきぶりのもがき苦しむすがたというのが尋常じゃなくて、こんなのでふだんカラダあらっててだいじょうぶなのかなとちょっと心配になりました。ほんと、だいじょぶなのか。花王ダブ。
●そんなわけで、とちゅうからけっこう書いてる本人も意図してなかったような手に汗にぎる展開になってしまいましたが、そもそもきょうおれがいいたかったのはシャンプーの危険性でもごきぶりとの死闘でもなくて、ヒゲソリについてです。でだしにさんざんいいたい放題いっちゃってすいませんでした。おれもあしたあの「きれてな〜い」をかってきます。じんせいどんな危険がひそんどるかわったもんじゃありません。ヒゲソリ中でさえ油断してはならんのだとおもいしりました。あしたさっそくかってきます。これいじょうはなのしたのばしたくないもんで。

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