[2001年03月24日] ウスラバカな春だったね
菓子パン(あさ)
コロッケとハムカツの定食(ひる)
焼売。麻婆豆腐。ビール(ばん)

 私には今好きな人がいます。彼は佐田さんと言います。彼を好きな女の子はサークルに何人もいて、香織ちゃんもその1人です。香織ちゃんは私が大学でできたただ1人の友人です。それが今の私の問題なのです。
 昨日の夕方に学校の傍のモスで、香織ちゃんと2人で、行く末を語ったのです。香織ちゃんは私を信頼していると言ってくれました。心から信頼していると……。そういう風に言われて私は泣きましたよ。香織ちゃんは私を慰めてくれました。
 今朝学校へ行く電車の中で香織ちゃんに会って、私は体調が悪いということを知らせて、ひとまず彼女を安心させて、ジュピターに今日の練習は出れませんとことわって、そして学校で佐田さんに会えなかったら、栗田君に会いに行こうと決心したのでした。
 まえに栗田君は「女は小さなことでも大きく騒ぎ立ててしまう」といっていましたが、それは真実だと思います。私もそうです。私は今までそういう子じゃないように装っていただけなのです。だけど装いはあくまで装いなのです。いつまでも同じ服を着ているわけにはいきません。香織ちゃんの気持ちもすごくわかるのです。でもこれ以上どうすることも出来ないのです。どうすればいいのかわからないのです。
 1時間が経過しました。
 ここはちょっと寒いですね。今日の私はやたら寒いのです。

4月16日



 佐田さんと私で二人して栗田君の所に遊びに行ったのが火曜日で、その前の日の月曜日に香織ちゃんに見つからない場所で佐田さんと待ち合わせをして、学校の傍の喫茶店へ行ったことが、そもそも私と佐田さんの秘密のつきあいの始まりです。いやいやその前の日の日曜日にあった佐田さんからの電話からかもしれません。とにかく月曜日に喫茶店で色々と話したのです。彼はその時、2人から好きだと言われて本当にどうしていいか困ったと言ってました。俺の気持ちを全然考えてないから2人してあんな風に言えるんだと私は責められました。いつも2人(私・香織)でいるからおまえをお茶に誘うことも出来ない。おまえとプラトニックにつき合いたいと言っていました。佐田さんの要求するつき合い方というのがこうなのです。公然として私達は恋人同士だというような顔をして2人して歩きたくないそうです。そしていちいち2人の間にあったことを友達などに言わない。2人でいる時に精一杯楽しめばそれでいいと、まあこういうものなのです。
 私の性格ではこれは至極難題です。
 その日の夜に私は佐田さんに電話をしてしまいました。香織ちゃんにいつまでも黙っていられる自信がないと。あの人は、おまえの性格じゃそうかもしれないと言っておりました。彼は拘束されるのが嫌だとその日の昼間言ってました。私はその電話をした時点でもうあの人の心に負担を与えていたのです。それはもう充分にわかっていたのです。
 そしてとにかく火曜日も佐田さんと会って色々と話したのです。でも私はその時から佐田さんの心の重荷になりたくなかったので、あえて香織ちゃんの話題を避けていたと思います。彼も聞きたくないと言いますし。
 その日は2人でずっといて、夜、栗田君の所にお邪魔したのです。
 香織ちゃんには佐田さんのことは口を閉ざしています。今は、それが彼女を傷つけないことと思っています。今はもう言う気になれないのです。私の演じている役の難しさ、栗田君はわかってくれるでしょ。10点満点ものですよ。
 とまあこれがまだ栗田君に話していなかった全てですよ。もし佐田さんが栗田君の所へ遊びに行って、私の話題が出たとしても、私がこの話をもうしたことは佐田さんには内緒にしておいて。栗田君は、とにかく私の話題に関しては、受身の姿勢をとってください。さも何も知らないかのように。どうです。これもなかなかの役割だと思うのよね。楽しいね。人生ってこういうものかもしれないね。何だかんだ言っても私、佐田さんに嫌われるのが怖いのよ。やだわ。結局卑怯な人間なのだわ。たいした役者よ。
 おっと、心配なのは栗田君がこの手紙を読んだあと、どこに置くかということ。心配ですよ。捨てるか、ちゃんとしまっておくかして。間違ってもスピーカーの横とか見える所に置かないでよ。役者はそういう細かい所にも神経を使わなくちゃならないものよ。そして演じきらなきゃ拍手喝采は浴びれない。

4月23日



 今日学校で佐田さんと会って、2人の会話。

 私:昨日はあのあとどうしたの?
 佐田さん:体調悪かったからすぐ帰った。風邪ひいたみたい。
 私:まっすぐ帰ったの?
 佐田さん:どうして? そうだよ。

 どうしてなの? どうして昨日栗田君の所に来たことをだまっているのかしら。私は不安でなりません。そういう男心みたいなものって、どうしてもわかりません。今日彼はジュピターの練習が終わったあとで、栗田君の所に寄るかもしれないと言っていました。私はあせって、昨日私がやって来たことは絶対に言わないでと念を押しにまたこうしてやって来ました。帰るお金がないのです。でも矢崎君のことを思い出しました。彼は予備校時代に交番で100円借りましたね。私はもし栗田君が帰って来なかったら、彼を見習おうと決心しました。ああでも昨日みたいに栗田君帰って来て。
 佐田さんの気持ちがわからなくなってきました。空中分解の色が見え始めました。私もこれで終わりです。なんかとても全てが面倒臭く思えてきました。

 8:00まで栗田君を待ちます。

4月28日



 天国と地獄ではなくて、天国から地獄への気分を十分に満喫しています。8:00に栗田宅を出て、そのまま踏切の傍の所の交番へ行きました。100円を借りて、交番から出ると、佐田さんと香織ちゃんが手をつないで歩いているのが見えました。私は反射的に身を隠しました。2人は手をつないだまま、栗田君のアパートの階段をのぼって行くのが見えました。
 私は町の中をさまよいました。どういうことなの? どうして? 「?」が私の心に充満しています。決心して栗田君の部屋に戻って来ました。9:20に栗田君の部屋のドアをノックしました。誰も出てきませんでした。ドアを開けて、中をのぞきました。佐田さんの靴も香織ちゃんの靴もみあたりませんでした。気分は一層地獄になりました。その気分のままで色々と考えて、今日はここで栗田君の帰りを待つことにしました。
 栗田君が帰って来たら、私、栗田君に聞きたいことがいっぱいあります。栗田君はこのことを知っていたの? それなのに私には黙っていたの? 私は栗田君を信じて色々話してきたのに、栗田君は全部知っていて、私をだましてたの? もしそうなのだとしたら、私はこれから先、誰も信じないことにします。
 涙があとからあとから出てきて、もう手紙が書けなくなりました。

沼の目次