[2001年07月02日] あたり
菓子パン(あさ)
ラーメン。ぎょうざ(ひる)
ぎょうざ。めし(ばん)

 りん子さんはまだ十九だったから、子供を産むなんて、ぜんぜん考えていなかった。
 それでも空のうえのだれかさんは、りん子さんの考えがどうだろうと、ころあいだと思えば子供をさずけてしまうし、空のうえのだれかさんがそのころあいをどうやって決めているのかは、いまだにおれたちはわからない。予定日から一週間してもまだ生理がはじまらなかったとき、りん子さんは空のうえのだれかさんにむかって、「どうか生理をはじめてください。」と祈った。りん子さんは本気でそう祈った。けれども生理はこなかった。りん子さんはバカだが、バカでも苦悩することはできる。りん子さんは苦悩の日々をおくり、苦悩の毎秒に耐えながら、「ひとの役にたつようなことをすれば、神さまがわたしを許してくれて、このくるしみから解放してくれるかもしれない。」と考えた。そしてそれを実践した。りん子さんは親友のはる子さんのかわりに、電話で、はる子さんのすきな男の子に告白をしてあげることにした。「はる子さんはあなたのことを好きだといってるんだけど、あなたはどう?」もちろんりん子さんははる子さんのためにそういうことをしたのだが、結果は最悪だった。ぎゃくにはる子さんにめちゃくちゃにしかられてしまった。「どうしてそんなでしゃばったことをするの? そんなことをしてわたしがよろこぶとでもおもったの? あなたなんて、だいキライ。」はる子さんにそんなふうになじられた。りん子さんは泣いた。泣きながらはる子さんに謝った。謝るよりほかに、りん子さんにはどうすることができたろう? それでもはる子さんはりん子さんをゆるさなかった。それでりん子さんは、じぶんのことをこう規定した。「私は最低だ。」ひとだすけに失敗したので生理はまだはじまらなかったし、永遠にはじまりそうにもなかった。生理が遅れてからもう四週間がすぎていた。りん子さんは、かつてないうちひしがれた気ぶんのまま、妊娠判定薬を学校のある街の駅ビルの薬局で買った。それをおしっこにひたせば妊娠しているかどうかがわかる。じっさいその判定薬にどれほどの信頼性があるのかはしらないが、少なくともあるていどの気やすめにはなるのだろうし、気やすめというのは立派な文明の発明品だ。その気やすめにそれだけの価値があるとおもえば、ひとは金をだしてそれを買う。薬品を手にしたりん子さんはそのまま駅ビルのトイレにいき、じぶんのおしっこを調べた。そこでりん子さんが得たのは、気やすめではなくて、絶望だった。判定薬によれば、りん子さんは妊娠していた。りん子さんはふらふらとトイレをでてすぐにあったみせにはいった。本屋だった。そこで出産についてのべられた本を立ち読みした。読みながらりん子さんは、声をあげて泣いた。りん子さんはバカだが、バカでも泣くことはできるし、バカの流す涙はときどき、信じられないくらいにうつくしい。そのときりん子さんが流した涙はきっと、信じられないくらいうつくしかったろう。泣きながら本屋をでると、りん子さんの目のまえで福引をしていた。駅ビルで買い物をすると、三千円につき一回、福引をすることができる。りん子さんが買った妊娠判定薬は三千七百円だった。そのレシートを係のひとにわたして、りん子さんはぐずぐずと泣きながら福引をした。さてみなさん、ここがこの話のヤマである、この話にここまでつきあってくれたひとたちどうもありがとう、ここがこの話のヤマである。りん子さんはその福引で、特賞をあてた。特賞はヨーロッパ十日間の旅だった。鐘がならされて、退屈そうにしていた福引の立ち会い人たちがみんなたちあがり、目をかがやかせ、えがおになって、くちぐちにりん子さんに「特賞大当たりです、おめでとうございます」といった。それでりん子さんはいよいよ涙がとまらなくなってしまった。泣きつづけるりん子さんに、みんなが拍手した。

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