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→やあみんな元気かい。おれがぽいうだ。まったく、すてきな季節になったね。すてきな季節にぴったりの、すてきな曲を今夜もがんがんかける。合言葉はWMZN、今夜もしばらくつきあってくれ。
→ところできょうは、放送のまえに、局のビルの一階のレストランで、ヒラメ料理をたべてきた。おかげでおなかいっぱいさ。ふう。どうだい、番組のはじめに献立を紹介するなんて、あたらしいパターンだろう? これからはいつも、さいしょに、その日の食事のメニューを紹介することにするよ。…というのは冗談で、まあきいてくれ、ヒラメをたべたのには理由がある。
→レストランの、窓際のテーブルにひとりでついて、さあ、なにをたべようかな、とメニューをひろげてかんがえていたら、みたことのない女の子があらわれて、ここ、あいていますか、とテーブルのむかいがわの席をしめした。たしかにそこはあいている。うなずくと、彼女はその席にこしをおろして、おれの目をみつめて、さらにこういうんだ。「この店はヒラメ料理がおいしいんです、ぜひそれを注文してください。」
→やれやれ、ずいぶんとよけいなお世話じゃないか。みんなだってそうおもうだろう? じぶんのたべるものはじぶんできめるさ。そうかんがえておれは、ヒラメ料理を注文した。おいおい誤解しないでくれ、おれは彼女のすすめにしたがったわけじゃない。たまたまそいつをたべたい気ぶんだったんだ。それでそう注文すると、彼女はうれしそうにほほえんで、それから席をたっておじぎをひとつして、そしてどこかへきえてしまった。もう二度とあらわれなかった。おかしな女の子もいたもんだ。料理がきて、おれはそれをたいらげた。たしかにうまかったね。たいした料理だったよ。じゅうぶん満足して、さいごに代金をはらおうと店のひとをよんだ。いくらですか、とたずねた。そうしたらね、店のひとは、もういただいてます、というんだよ。ぴっちりしたTシャツをきた女の子がはらってくれました、と、こういうんだよ。きっとさっきの女の子のことだ。あわててあたりをみまわしたけど、どこにも姿はみあたらない。いったいあの女の子は、なんだったんだろう?
→食事をおえて、仕事場へむかうエレベーターのなかでひとつ、そういえば、とおもいだしたことがある。じつはおれはきのう、引っ越しをしたんだ。きのうまですんでいたアパート、それはとなりの町にあるんだけど、じつはね、そこで、たべものをあげているネコがいたんだ。なまえなんてない。ネコはネコだ。まいにち、おれがラジオ局へでかける時間になると、アパートのいりぐちでおれをまちかまえていて、おれにたべものをねだるんだ。しょうがないからいつも、なにかたべるものをあげていたのさ。どうだい、ちょっとしたエピソードだろう? おれの上着のポケットにはいつも、そいつにあげるためのなにかがはいっていたのさ。ソーセージのきれはしだったこともあれば、たべかけのビスケットだったこともある。ネコはいつも、よろこんでたべてくれたよ。けれどもおれはそのアパートを引き払ってしまった。もうたべものはあげられない。それでおしまいの日のきのう、ちょっとふんぱつをして、そいつにごちそうをしてやったのさ。ネコの好物なんてしらないけど、きっと魚がすきなんだろうなとかんがえて、魚屋でヒラメをいっぴきかってきて、あげてみたのさ。そいつは目をまるくしておどろいてたね。なにしろサンドイッチにはさまってたレタスのきれはしだとか、カクテルにつかったオリーブの実だとか、そんなものしかあげてなかったからね。とつぜんごちそうをめのまえにして、ネコはしばらく、おれとヒラメを交互にながめていたよ。もう、おわかれなんだ。たっしゃでやれよ。おれはネコにそういって、おしまいにアタマをちょっとなでて、そうしてその場所をあとにしたのさ。ふりかえると、ネコはふしぎそうなかおでおれをながめていたよ。ちょっとだけ、胸がいたんだ。でも、どうしようもない。どんなじんせいにもわかれがある。ネコとDJにも、それは、あるのさ。
→そいつのことをおもいだして、それからレストランの女の子をおもいだして、なんだかちょっと、おかしな気ぶんになってしまったよ。まさかとはおもうんだけど。でも…。まさか、ねえ?
→オーケー、くだらないおしゃべりはこれくらいにして曲にしよう、ジェネシスで、「Dance On A Volcano」。こいつをかければネコだって踊りだすさ(うそをいうなっ)。
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