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せんじつ居間で本をよんでいたらツマの歌がかすかにきこえてくる。耳慣れない、しかしなにか気になる歌だ。なんだろうとそっちをみると、ツマはうつむいていて「ぽよよ〜ん、ぽよよ〜ん」と小声で歌いながら、ゆびさきでワキバラをつついている。弾力でゆびがおしかえされてくるのがたのしいみたいで、なんどもなんどもワキバラをつついては「ぽよよ〜ん、ぽよよ〜ん」と歌っている。完全にじぶんひとりの世界である。そのあまりの自爆的行為におれはなにもすることができず、ただみまもるだけだった。ああ神様、彼女をおゆるしください、彼女はいま、じぶんがなにをしているのかわかっていないのです、と彼女のために神に祈るくらいがおれにできる精一杯のことだった。そのうちツマはおれの視線に気づいたらしく、はっとしてこっちにむきなおり、きっとにらみつけそれから「ジブン、わかってるやろな」とくぐもった声で脅迫をしてきた。なにがわかっているというのであろうか。「いまのはみなかったことにする。そのことわかってるやろな」か。「わたしのワキバラはほんとはそんなにたるんでない。ないったらない。それくらいわかってるやろな」なのか。それともたんに「ひとことでもなにかくちをきいたらコロス」であろうか。おれにはわからない。でもたぶん、そういったことぜんぶをひっくるめて、あらゆる可能性をぜんぶひっくるめたうえでの「わかってるだろうな」だと自主的に理解して、「うん」とこたえておれは読書にもどったのだった。われながらほんとによく出来たいいオットだとおもう。
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