|
裏BBSというものがある。裏というとなにか悪の香りがしてイメージがよくないのだが、限られたメンバーで、そのことを証明するためにパスワードをうちこんでからはいっていくBBSというのがある。現代文明社会というのはおそろしいなあとおもうのは、ときとしてこの裏ボードがつないだだけでモニターから妖気がたちのぼってくるような、凶悪なボードになってっちゃう場合があることである。無関係のものがのぞけないという安心感から、内緒話やちょっとやばい話なんかもそこではできるからだ。一例をあげよう。ここになんの罪もないひとりの男がいた。…ないのかな。まあともかく、ひとりの男がいた。なまえを仮に吉宗とする。吉宗はあるBBSにではいりをし、なにをおもったのかそこでかたっぱしから女の子をくどいていた。くどきくどかれることに特化したボードならべつにいいのだが、そこはそういうボードではなかった。にもかかわらず吉宗はそこで手当たりしだいにメンバーの女の子をくどいていた。もちろんボード上であからさまにあっちにもこっちにも愛のコトバをささやくなんてことはせず、他のメンバーには内緒で、かげでこっそりと、どこからともなく入手してきた女の子のメールアドレスにメールを送りつけてたぶらかしていた。当人はうまくやっているつもりだったのだろうが、そのボードには吉宗のしらない裏ボードがあり、そこでぽろっとその話題がでてしまった。だれかが「こないだ吉宗がAさんをくどいてたよ」とかいた。するとだれかが「え、そのまえはBさんをくどいてたよね」とかえし、さらには「おれはCさんをくどいてたってきいたけど」「さいきんDさんをくどいてたのはしってる」みたいになって、あとからあとからでてくるわでてくるわ、けっきょく「えっ、これってつまり、ぜんぶくどいてるじゃんっっ」という話になってしまった。吉宗としてはうまくコトをはこんでいるつもりだったのだろうが、なにかをすればそこに多少のケムリがたちのぼってしまうのはしかたのないことであり、吉宗はあちこちでそのケムリをたてている状態にあった。彼にとって不幸だったのは、そこに裏ボードというものが存在し、それらのケムリが一カ所に集中的にあつめられ、いっぺんに大火事になってしまったことである。これがオフィスの給湯室だとか居酒屋のカウンターとかでのヒソヒソ話ならその場だけですんでいたのだろうが、そこは現代文明社会のBBSである。各自が情報をひとつところにもちよって全員の情報として共有することができる。すきなときに閲覧できる。総合的に判断できるうえ、検索までできてしまう。おそろしい世の中である。さらに吉宗にとって不幸だったのは、その裏ボードのメンバーに、ついさいきん吉宗にくどかれたばかりの女の子がいて、その独占手記を発表されてしまったことである。またこの手記というやつが相当によませる文章で、ビにいりサイにわたって吉宗の芝居がかったくさいセリフだとか仕草だとかが克明に記述されていて、なかでもとくにすばらしかったのは吉宗が彼女を秘宝館につれていったくだりである。ヒホーカンだヒホーカン。いったい二十歳くらいの女の子を初デートにさそっていきなり秘宝館につれてくバカがどこにいる? それこそ「お〜ま〜え〜は〜あ〜ほ〜か〜」とノコギリで歌ってきかせてやりたくなる。ここまでくるとメンバーはあきれるを通り越してかえって吉宗に感謝したくなった。娯楽をありがとう、とかれらはモニターのまえで随喜の涙をながす以外に、なすすべはなかったのであった。吉宗という男はどうも、エンターテインメントというものの神髄を理解していたようである。ここにいたってかれらは、吉宗にもう誹謗とか中傷とかはあびせられなかった。賞賛するしかない。そのあまりのバカさ加減に、ほめてやるしかこれはもう、ない。そうしてかれらは非常識モノというのは、その非常識道をとことん追求すると最終的にはスターのなかのスター、スーパースターになるのだとさとったのだった。けっして表面化することのない、裏のスーパースターがまたひとり、ここに誕生したのであった。そんなの誕生させてる場合じゃないんだけど。ていうか、こういうことがおこりえてしまうのだからネットというのもけっこうこわい面があると、それはつくづくおもいました。もしかしたらじぶんもどこかでスーパースターになってるかもしれない。その可能性はだれにも否定できない。そうかんがえると、やっぱりちょっとこわいよね。みなさんマナーをまもってたのしいネットじんせいをすごしましょう。この話のけつろんです。あと、なんかやけに具体的なところがあったりしますが、これはもちろんたとえ話であって、おれが勝手に想像した話なのであって、そこのところはくれぐれも誤解のなきようよそりくおめがいしなうs。あ。よろしくおねがします。
|