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おれは将棋オヤジなのでプロ養成機関の奨励会の成績というものにも目をとおしたりする。といっても将棋雑誌をかってくると成績表がのっているから、なんとなくながめてるというていどのことなんだけど。で、そこにかなりまえから気になるなまえがあって、「郷右近力」というなまえである。勝手になまえだしちゃってごめんなさい郷右近力さん。でもわたし、いぜんからあなたのことが気になっていました。なにが気になるって、そもそもどこできったらいいのか、そこからしてわからない。よみかたなんて、いよいよわからない。かわったなまえだなあとおもっていたらさいきん、どこできったらいいのかわかった。郷右近・力ならしい。しかもやっぱり郷右近というのはゴーコンとよむらしい。なんというか、運命のいたずらとはふしぎなものであるよなあとおもわずにはいられない。郷右近なんて、かなりカッコいいなまえじゃないですか。なまえをきいただけですでにちょっと恋がめばえてしまうくらいカッコいいじゃないですか。じっさいたぶん、明治時代とか昭和前半にはそうとうな名字パワーを発揮してたっぽいじゃないですか。それがやがて時代がすぎて「合コン」という言葉が発明されてしまったおかげで、とたんに郷右近パワーはあとかたもなく消え去り、かわりに「え? 合コン? あなた、合コンさんていうんですか? へええ」という反応しかかえってこないという、なんだかわけのわからないことになっているにちがいない。かわいそうな郷右近一族。郷右近さんにかぎっては「合コンをちがう呼び方にかえろ」と主張することがゆるされるとおもう。そういう希有な一族であろう。郷右近さんだけには「合コン? なんだそりゃ。合同コンパ? ますますなんのことだそりゃ。だいたいコンパってなんなんだよコンパって。そんな意味不明なものを合同でおこなうから略して合コンって、なんだよそれ、意味わかんねえよ、おれは認めないよ、ぜったいに認めないよそんなの」くらいはいわせてあげるのはしょうがない。でも郷右近がどんなに力説しようとあれはもう合コンなのであって、たぶん未来永劫合コンなのであって、したがって合コンさんもそのかなしいさだめからは逃れようもないのであった。かわいそうな合コン。
こういうふってわいたみたいな不運というのはときたまあって、いまでも「あれはかわいそうだよなあ」とおれがおもいだすのは瀬田たくろうくんのことである。瀬田たくろうくんという男の子が小学生のときの同級生にいて、べつにこの時点ではふつうのなまえである。なんともおもわずにときどきいっしょにあそんだりしていたのだが、やがて二十歳をすぎたころに、セパタクローという、バレーボールみたいなケマリみたいなハネツキみたいな風変わりなスポーツがわがくにに紹介された。セパタクロー? …なんかきいたことあるなあ、と、はじめてこの名称をきいたとき、なにか聞き覚えがあるようが気がした。でも、それがなんなのか、とっさには思い出せなかったのだが、しばらくして、なんの関係も脈絡もないときにフトおもいあたった。あっ、セパタクローって、瀬田たくろうくんだっ。瀬田たくろうと一字ちがいなんだっ、とおもいあたってしまった。そのころはすでに、たんなる小学校のイチ同級生にすぎなかった瀬田くんとは音信不通になっていて、どこでなにをしているのかはさっぱりしらなかったのだが、きっと瀬田くんはかげでまわりのひとからセパタクローっていわれてるんだろうなあと胸をいためずにはおられなかった。不運であった、と、おれにはもう、それしかいいようがない。ゆいつかれをなぐさめるとしたら、まだカバティーじゃなくてよかったね、と、それくらいしかおもいうかばない。よのなかにはこういう不幸な偶然というのはそこらじゅうにころがっていて、本人がどんなに努力をしようと関係のない不幸な偶然というのはたしかにあって、それは明日は我が身かもしれないし、あなたの身にふりかかってくるのかもしれない。
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