とり  カルボナラの法則

 なぜかおれはフォークでスパゲティーをたべるとき、ふつうとは逆に巻いている。ふつうというのは時計まわりのことで、おれは反時計まわりだ。そのことに気がついたのは高校生のときで、とうじのガールフレンドといっしょにスパゲティーを食べていて指摘された。
「くりたくん、その巻きかたって、ぎゃくだよ」
 そこはスパゲティー屋だった。そこにはたしかに、おれとおなじむきにフォークをまわしているひとなんて、ひとりもいやしなかった。それいらいおれは、だれかがフォークでスパゲティーを巻いてるところをみると、ついそのようすを観察してしまう。だが、おれとおなじむきにフォークをまわすひとには、いまだにであったことがない。
 いつか、午後のスパゲティー屋でビールを飲んでいるおれの隣のテーブルに、きれいな爪の女の子がすわるのをおれはまっている。彼女はカルボナラを注文し、料理がくるまで、煙草に火をつけ、ジョン・アップダイクの文庫本を読んで時間をつぶす。カルボナラの皿が彼女のテーブルに運ばれてくると、彼女は本をバッグにしまい、ゆびさきで髪を耳のうしろにかきあげて、フォークとスプーンを手にする。それから、スパゲティーを3本だけフォークにからめとり、それを、反時計まわりにかちゃかちゃとまわしだす。そうしたらおれはきっと、彼女に結婚を申しこんでしまうだろう。
「あなたみたいなひとをまっていたんです。僕と結婚してください。」
 そういうわけで、おれは、スパゲティー屋にはいると、ひとの手をみずにはいられないのだ。

[22,11,1999]