とり  滅亡への門

「マロンタくん」
「すか〜すか〜(ヤリくたびれて寝とる音)」
「マロンタくん」
「すか〜すか〜」
「ねえ、マロンタくん、ねえってば」
「むにぁむにぁ」
「ねえマロンタくん、ちぉと起きて、ねえ起きてよ」
「むにぁ?」
「起きてってば」
「どうしたんだよむにぁむにぁ」
「パンツがないのよ」
「はあ?」
「パンツがないの」
「なんだってえむにぁ」
「パンツがな‥。ちぉとどこみてんのよ」
「みてないみてない」
「みたらなぐるよ」
「みてないみてない」
「で、あたしのパンツどこおいたのよ」
「しらないよ」
「だって、あたしのパンツ脱がしたのはあんたでしぉ」
「そらそうだけど」
「そんでどこおいたのよ」
「どうしたっけなあ」
「おもいだしてよ」
「ええと。そういや空中にほうりなげたんだよ。ひら〜っと」
「そんで?」
「そんでって、あとはしらない」
「しらないって、あんたねえ」
「だってしらないんだからしぉうがないだろ」
「じぁちぉと起きて、一緒に探して」
「そんなの明日にしようよ。もう寝ようぜ」
「パンツなしで寝ろっていうの」
「死にぁしないよ」
「ふざけないで」
「だったらおれのパンツを貸してやるよ」
「ふざけないでってば」
「ちぉっとまってね。ごそごそ(パンツを脱いだ音)。はい。コレ」
「ふざけてないではやく起きて探しなさいっ」
「ははははははいっ」
そんなわけでおれは起きだしてヒロポンと一緒にパンツを探しだしたんだけどもさ。
ヒロポンパンツときたらどこにいってしまったのか、探しても探してもみつかんなくてさあ。
「やっぱしないよお。今日はもう寝ようぜえ」
「みつけるまではダメ」
「もう眠いよお」
「男のくせにつべこべいうんじぁない」
「パンツなんかなくたって眠れるって」
「あんたはそうでもあたしはダメなの」
「だからおれのパンツを貸してやるってば」
「なぐるよほんとに」
「‥‥‥」
「だけどほんとどこいっちぁったんだろあたしのパンツ。あんたまさか隠してないよね」
「まままさか」
「ほんとに隠してない? ほんと? ふううん。まいいか。しぁーない。あたしも覚悟きめた」
「やったあ。えらいっ。ちぉっと待ってて、いまおれのパンツだすから」
「あんたほんとにあたしがそんなもんをはくと思ってんの」
「じぁやっぱしパンツなしで寝るの?」
「ちぉとどこみてんのよ」
「みてないみてない」
「ったく」
「みてないみてない。でやっぱしパンツなしで寝るの?」
「ばかなこといわないで」
「じぁどうすんのさ」
「買ってきて」
「へ?」
「買ってきて」
「ははは。冗談だろ」
「冗談じぁなくて。買ってきて」
「‥‥‥」
「はやく」
「‥‥‥」
「は〜や〜くっ」
「だだだってパンツなんかこんな夜中にどこで売ってんだよ」
「コンビニ」
「そんなの自分で買いにいけよ、おれは男だぜえ?」
「だってあたしのパンツをなくしたのはマロンタくんでしぉ、責任とってよね」
「責任たって、おれは男なんだよお」
「それがどうしたっつうのよ」
「どうしたもこうしたも、女もののパンツなんて、買えるわけないだろお?」
「買えるよ。はやく買ってきて」
「おねがいだから自分でいってきてくれよお」
「いけるわけないでしぉ、パンツはいてないんだもん」
「きっといよいよチカンにもあわないよ」
「おまえね」
「とにかく自分で買ってきてくれよお、おれのジーパンでもなんでもすきなのはいてっていいからさあ」
「だからそんなのははきたくないんだってさっきからいってるでしぉ」
「だけどおれだっていきたくないんだってさっきからいってるだろお」
「どうしても買えないっていうの?」
「うん」
「どうしても?」
「どうしても」
「へええ、そうなの。ふうん。じぁあたし、お父さんにいいつけるけど、それでもいい?」
「いいいいいつけるって、なんて?」
「マロンタくんにゴーカンされたって」
「ゴっ‥」
「あたしのお父さんはケージだよ」
「ケっ‥」
「いいつけるけど、それでもい〜い?」
「‥‥」
「さあ、買いにいくの、いかないの、どっちなのっ」
「‥‥」
「どっちなのっ?」
そしておれはその晩うまれてはじめて女のパンツを買ったんだ。
ヒロポンにはだれも勝てない。


つぎの日はヒルすぎに起きだしおれはヒロポンを池袋の駅のホームまで送ったんだ。
「マロンタくんなんか元気ないよ」
「やだなにどうしたのよ」
「ちぉと元気だしてよ」
「ちぉっとほんとどうしちぁったのよ」
「あそうか、あたしたちがこんなふうになっちぁって、沖山くんになんて説明したらいいかなやんでるんだ」
「そうだよねえ、ちぉっとまずいよねえ」
「とにかくまたあとでくるからさ、あたしたちのこれからのこと、考えよう?」
「ひとまず沖山くんには内緒にしといてさ」
「一緒にゆっくり考えようよ、ね」
「やだほんとにもう元気だしてよお」
「あ電車きちぁったじぁあたし帰るけど元気だしてねえあんまりひとりで悩んじぁダメだようじぁねえあそれからあたしのパンツがみつかったら返してねえじぁねええ、ハイホ〜〜」
てめえなんか電車んなかでチカンに顔射されやがれって思いながらおれはヒロポンを見送ったんだ。
このバカ女はったいなんなんだよ、くそう。
沖山のことなんかでおれが悩むわきぁないだろうっつうの。
あんなクソ夜中にパンツ買いにいかされて、それでふてくされてるんだっつうのがなんでわかんないんだよ。
なあにが「あたしたちのこれからのこと」だよ。
んなもん、あるわきぁね〜だろっ。
やっぱしおれには白都さんしかいないね。
つくづくわかっちぁったねもう。
ヒロポンのあのワガママさにくらべて白都さんのあの素直さかわいさ女らしさ。
やっぱし女の子は素直でつつしみ深くなくちぁね。
しかしひでーメにあっちぁったよなあ。
おれってもしかして人類愛すぎるのかなあ。
でも、まあいいや、一回ぶん得したしな。
そんなことを考えながらロマンス通りをすぎツレコミ街をすぎてアパートにもどると部屋の入り口でなんといとしの白都さんが待ってたんだ。
「やあ」
うれしくなっちぁっておれは声をかけたんだけど、
「おかえり」
彼女の声はなんだかトゲトゲしくてさ。
「どこいってたの」
「パチンコ」
「どうして学校にこなかったの」
「からだの調子がわるくてさ」
「じぁどうしてパチンコなんてできるの」
いつになく白都さんがからんでくるわけ。
「まいいからとにかくなかにはいろうよ」
白都さんを部屋に通しながらおれは考えた。
なんかおれ、白都さんを怒らせるようなことしたっけかなあ。それともまさかおれがべつな女の子に手をだしたのをなんとなく察知してるとか。いくらなんだってそこまでするどかったらオバケだよな。じぁなんだろう。わかんないけどともかく今日のところはおだてとくに限るな。
つうあたりにおれは方針をさだめたんだけど部屋にあがって周囲をみまわすなり白都さんがいうには。
「きのうだれか泊まった?」
「ぎく」
「だれか泊まったでしぉ」
「なななななんで」
「なんとなく」
「だだだだだだれも泊まってないよ」
「だれが泊まったの?」
「ととととと泊まってないってば」
「うそ。あたしわかる。だれが泊まったの?」
「あああそそそそそういえばおおお沖山が」
「うそ。きょう沖山くん学校にきてたよ」
「おお沖山だけ学校いったんだ」
白都さんはもう完璧に疑いのマナザシでさ。
「うそっ」
そういって白都さんはぷいっとそっぼをむいちぁったんだ。
「うそなんかじぁないって。どうして信じてくんないんだよ、なんか疑ってるみたいだけどおれいままで白都さんにうそなんていったことないだろ。おれがすきなのは白都さんだけだって、ほかの女なんてぜんぜん眼中にないんだ、白都さんだけだって。ほんとだってばどこみてんだよ、こっちむいてくれよ」
さっきから横をむいたきりの白都さんはそこでぽろりといったんだ。
「髪‥」
へ? とか思って白都さんの視線のさきをおいかけるとさ。
そうなんだ。
そこにはヒロポンの長い髪の毛が一本おちてたんだ。
さっきから白都さんはそれをみつめてたんだ。
あたたたたたた。
「そそそういえば昨日は沖山と一緒にヒロポンもきてたんだ」
「‥‥‥」
「ほんとだってば、ぜったいほんと」
「‥‥‥」
あいかわらず白都さんは横をむいたきりのだんまりでさ。
これぁもうありきたりのでまかせじぁ場をとりつくろうのは無理だと思っておれは突撃を開始しようとしたんだ。
「なに怒ってんだよ」
いいながらおれは白都さんにずりよって肩をだきよせた。
「やだっ」
いつもとはまったくちがって本気で拒絶されちぁったんだけど、こんなことくらいでひるんでたらヒロポンにはいいよれない。
「きげんなおせよ」
「やだってばっ」
白都さんはおれの手をふりこどこうとしてさ、からだをねじったんだけど。
勢いあまっちぁって。
そばにあったくずかごを倒しちぁったんだ。
倒れたくずかごからガサガサと中身がでてきて、そこらじうに散らばっちぁったんだ。
そして散らばったゴミとかにまじってでてきたのは。
そうなんだ。
ねえ、こんなことってあってもいいの?
そうなんだよメロス。
ヒロポンのパンツがとびでてきちぁったんだ。
ハイホ〜。


もちろん白都さんは衝撃顔でヒロポンパンツをみつめてる。
おれも、もう挽回は不可能なのをさとり、だまってヒロポンのパンツをみてる。
ふたりともなにもいえないまま、ボーとパンツをみてる。
そしてこんなときに限って時間はゆっくりとながれる。
おれはもう針のムシロのうえでじわじわと火アブリにされてるような気もちさ。
突撃したつもりが逆に地雷をふんずけちぁったんだからね。
ヒロポンにはもうとことん爆砕されちぁったよ。
ふいに、白都さんの涙声がした。
「あたしかえる」
白都さんはいつだってたった一言でそのときの気もちをぜんぶ表現しちぁえる女の子だった。
そして白都さんはするっとたちあがり、さっさと部屋をでてっちぁったんだ。
とり残されたおれは肩を落としてヒロポンのパンツをながめてた。
ったくどこまで人騒がせなパンツなんだよもう。
思わずおれはつぶやいたんだ。

   この世は闇だ。

そしてじっとしてると、たったいま部屋をでてったときの白都さんの、紙くずみたいな悲しそうな表情が頭んなかに浮かんできちぁってさ。
たまらなくなったおれは部屋を飛び出し、全力疾走で白都さんを追いかけたんだ。
もういいわけのしようなんてなかったんだけどさ、わけもわかんないままとにかく白都さんを追いかけた。
ツレコミのジャングルを駆け抜けて、酒とゲロと小便のロマンス通りの、ポルノショップのまんまえでやっと白都さんにおいついた。
考えてみりぁ白都さんとおれはつくづくゲロと小便につきまとわれてた。
息をきらしながらおれは、白都さんの腕をつかんで呼びとめたんだ。
「待てよ」
おれの言葉にふりむいた彼女は泣いていた。
思い出せばおれはいまでも胸が痛くなる。
メロスよ、よかったらここは、てきとうな節をつけて歌ってほしい。

G     Bm
ふりむいた彼女は

C   D
泣いていた

G  Bm  C
思い出せばおれは

D     G
いまも胸がいたい

そうさ、白都さんは泣いてたんだ。
「ごめん」
おれはもう、こころから謝った。
ほんとにこころから謝ったんだ。
「ゆるしてくれよ」
「‥‥‥」
「泣かないでくれよ」
「‥‥‥」
「ごめんな」
「‥‥‥」
「ゆるしてくれよ」
「‥‥‥」
「それとも、ゆるさない?」
「わかんない」
「ゆるしてくれよ」
「かんがえる」
「もうぜったいに泣かさないから」
「‥‥‥」
「ごめんな」
「‥‥‥」
「ほんとにごめん」
「あたし、わからない」
涙につまりながら白都さんはポツポツしぁべりはじめた。
「なんか、くりたくんて、あたしと、することしか、かんがえてないみたい」
「なんか、くりたくんて、誰とでも、いいみたい」
「だから、すこし、考えたかったの」
「‥‥‥」
どうも純愛路線だとしんじこんでたのはおれだけだったらしい。
白都さんはそうは思ってなかったらしい。
そうおれは理解した。
「もう、くりたくんとは、会わないかもしれない」
「‥‥‥」
「電話も、しないで」
「‥‥わかった」
「さよなら」
「待ってよ」
「‥‥‥」
「最後に、頼みがあるんだ」
「なに」
「おれのキンタマをにぎってくれないか」
「き‥‥」
「たのむよ」
「‥‥‥」
「いいだろ」
「へんたいっ」
そうさけんで白都さんはパタパタ走ってちぁったんだ。
こんどはおれは追いかけず、ちいさくなってく彼女の背中をロマンス通りのまんなかでただ見送った。
ふん。
これで白都さんとおれはおしまいさ。
ふん。
だけど、ねえメロス、なんでおれ、あんなひどいこといっちぁったのかなあ。
おれ、ときどき自分で自分がわかんないよ。
わかったっていまさらしぉうがないし、わかりたくさえないんだけどね。
でも、ひとつだけよくわかってる。
おれはほんとうに白都さんがすきだったんだ。
白都さんはしんじてくれなかったけど。
でも、キンタマを賭けたっていい。
おれは、ほんとに白都さんがすきだったんだ。
ふん。


アパートに帰ってくずかごから放りだされたままのパンツをみるなり突然おれの目から涙がこぼれた。
うろたえたおれはやけっぱちで歌いだしたんだ。

   ハイホ〜 ハイホ〜
   ハイホ〜 ハイホ〜

音程なんてむちぁくちぁんなっちぁってたけど、かまわずにおれは大声で歌い、泣いたんだ。

   ハイホ〜 ハイホ〜
   ハイホ〜 ハイホ〜

この話はこれで終わる。
だからメロス、最後に、よかったらおれと一緒に歌ってほしい。

   ハイホ〜 ハイホ〜
   ハイホ〜 ハイホ〜
   ふりむいた彼女は
   泣いていた
   思い出せばおれは
   いまも胸がいたい
   ハイホ〜 ハイホ〜
   ハイホ〜 ハイホ〜
   ハイホ〜 ハイホ〜
   ハイホ〜 ハイホ〜

革命家.jpg


この話の教訓
真夜中に叩かれた扉にこたえるな

[20,04,2000]