とり  前略

→大学生のときの冬、そのころすきだった女の子が入院した。いやほんとうはすきというほどではなくて、たんなるともだちの女の子だったんだけど、入院したとたんに「ああおれは彼女がすきだったのだ」と気がついた。たぶん入院したときいてすきだと思いこんでしまったのだといまではおもう。でもとうじのおれにはそんなところまであたまがまわらない。ともかく思いこんでしまったので、彼女に手紙をかくことにした。たぶん病院のベッドで退屈して、もしかしたらくらくなってるのかもしれない彼女を想像して、手紙をかいた。それはこんな文章だった。

 前略、青空は好きですか、おれは大好きです、だから好きになってください。
 桜の花は好きですか、おれは大好きです、だから好きになってください。
 日本そばは好きですか? おれは大好きです、だから好きになってください。
 ビールは好きですか? おれは大好きです、だから好きになってください。
 ホラー映画は好きですか? おれは大好きです、だから好きになってください。
 AC/DCは好きですか? おれは大好きです、だからうんぬん。
 ちかくに公園はありますか、その公園のベンチは好きですか? おれは大好きです、青空の日に公園のベンチで女の子とくだらない話をしているのが大好きです。
 待ちあわせは好きですか? おれは好きです、よく待たされるけれど。


 以上のことをまとめていうとこうなる。
 青空のひろがった日に女の子と待ちあわせをしてホラー映画を観て、そば屋でビールを注文してそばを食べて、それからレコード屋にたちよってあれこれと品定めをしたあとにAC/DCの新譜を買って、それから彼女の家のちかくの公園の桜の木の下のベンチで、暗くなるまでたわいない話をしたいな。


 だから、こんど桜の花が咲いたら、桜の花の下でずうっと話をしていようよ。

マサオ  


→彼女からきた返事はただ一行、うす紫いろの便せんにこう書かれていた。


桜が咲くまで待ちきれません。


→その冬その一行はおれにとって勲章になった。

→けれど彼女といっしょにおれが桜の花を見物にいくことはなかった。彼女はつぎの桜が咲くまえに病院のベッドのうえでその短い生涯を閉じてしまったからだ。というのはまっかな嘘で、彼女が退院をしてきたとき、おれはちがう女の子のほうにいっちゃってたからである。まちきれないのはおれのほうだった。
→そんなものだ。ぽいう。
→それはそうと、げんざい入院中の女の子たちにメッセージがあります。そんなひとがこんなのをよんでるかどうかはさだかではないけど、とにかくあります。きいてください。

  はやく退院できるといいね。

[05,09,2000]