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→わたしが小学生のとき、となりまちのR市(竜ヶ崎市のこと)にでかけるたびにみかけたかわったひとナンバー1、あまりに危険な頭文字D、それがドラゴンでした。ドラゴンはザンバラ髪の、着物姿の男性で、なぜだかつねに戸板のうえにウツブセにねそべっていました。まちなかの、戸板のうえでウツブセるその姿は、子供ごころに、かなりこわかったです。それはもう、夢にでてきそうなくらいこわかったです。おとなだってたぶんこわかったんじゃないかとおもう。だって想像してみてください。寝乱れたみたいにまえのハダけた着物姿の、ガリガリにやせほそった五十くらいの男が、まちの目抜き通りに雨戸をしいて、そこにウツブセてるんです。はじめてみるひとはみんなビックリします。はじめてじゃなくてもビックリです。
→でも、ドラゴンのおそろしいのはそのことじゃありません。ドラゴンの真におそろしいのは、移動です。そう、ドラゴンは動くんです。雨戸のうえにのったまま、雨戸で走るんです。魔法の絨毯さながらに。どうやら戸板のウラには車輪というか、ちいさな滑車がいくつもついてるらしくて、手で地面をおっぺしながら(方言です)走るんです。戸板にうつぶせたまま、ウデを回転させて、まるでいい波をめざしてパドリングするサーファーみたいに走るんです。シャー、シャー、とイヤな音をたてて。あの音をおもいだしただけで気の弱いわたしはもう正気をうしなってしまいそうです。そののち世間ではスケボーとかいうものが流行りだしましたが、ドラゴンにしてみれば笑止千万だったことでしょう。かれこそはその元祖、空前にして絶後、伝説の神技ショービット、そこまでやるかエアーキャッチ(うそだ)、それがドラゴンだったのです。
→さらに。ここがポイントなんですが、なにしろドラゴン号は、はやいんです。はやいったらないんです。まちの目抜き通りのまんなかを、クルマがびゅんびゅん行き交う車道のまんなかを、センターラインのまうえを、まさに我がもの顔で、シャー、シャー、と音もたからかに80キロくらいで疾走するドラゴン号。その低い姿勢と完成されたフォームは、ざんばら髪を風になびかせてクルージングするその勇姿は、みるひとにつねに戦慄のみをのこしていくのでした。ドラゴンがいったん移動を開始したら、路上をゆくクルマはみんな道バタに待機するしかありませんでした。R市でクルマが道をゆずるのは救急車と消防車とドラゴン。そういうことになってました。
→そんなドラゴンがむかうさきは、本屋でした。なぜだかドラゴンは本がすきなんです。本屋から本屋へ立ち読みというか、寝読みのハシゴをするのがドラゴンの日課なようでした。なにもしらない小学生のわたしが本屋のいりぐちで「怪獣大百科」なんかを夢中で立ち読みしてると、下のほうからにゅうっと手がでてきて、なんだなんだとびっくりするとそこにはドラゴン。戸板にドラゴン。かれが平積みになった「週刊実話」をとろうとしている。それでわたしは小便をちびるのでした。ほんとうになぜかR市の本屋にはドラゴンがつきもので、ひとびとがドラゴンを目撃するのはパドリングしてる姿か寝読みしてる姿かのどっちかでした。そして、どっちにしてもおそろしいことにかわりはありませんでした。
→とくにドラゴン目撃率のたかかったのが、S書店のいりぐちでした。ここはドラゴンがヒイキにしてた本屋で、そこでしょっちゅう寝読みをしてました。だからS書店のいりぐちで立ち読みをするのは、事情をしっているまちのひとには自殺行為にもひとしくて、それでS書店のいりぐちはいつも閑散としているのでした。だって、ねえ。かんがえてもみてよ。立ち読みしてて、ふと気づいたらじぶんの足もとに着物男がいるんだよ? そらびびるって。こええよドラゴン。客がよりつかねえだろドラゴン。しかしほんとに、だれがさいしょにそう呼んだんだドラゴン。あまりにぴったりだぞドラゴン。しかもここは竜ヶ崎。そのまちにすむ伝説の生物ドラゴン。でも、どうやってくらしてたんだドラゴン。
→さて、そんなドラゴンですが(どんなドラゴンだ)、わたしがR市にある高校へ進学してまいにちR市へかようになったころ、その勇姿をふっつりとみなくなってしまいました。車道をゆくクルマの運転手は安心してハンドルをにぎり、S書店は家業をもりかえし、R市に平和がおとずれ、そしてぼくたちのこころにすこしだけ穴があきました。ドラゴンはどこへいってしまったのだろう。ついにダンプに轢きころされたのでしょうか。いやいや、あのドラゴンのボードテクニックにかぎってそんなことはありえません。たぶんドラゴンは、ひろい世のなかをみたくなって、それで冒険の旅にでてしまったのでしょう。ドラゴンクエストの主人公のように。そして、きっときょうもどこかのまちで、シャー、シャーと車輪をきしませて本屋から本屋へ移動をしているにちがいありません。いま、あなたのまちにきたところかもしれない。だから、本屋で立ち読みをするときには気をつけてくださいね。だって、ふと足もとをみれば、もしかしたらそこには‥‥。
次回以降続々登場!
あまりといえばあまりに「かわったひと」たち
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