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「バカロック」
→池袋ぽこぺん大学。それがおれのかよった大学で、そこにはチャペルというタテモノがあって、そのなかにはチャプレンという喜劇役者みたいな名まえのひとたちがいた。このチャプレンがふだんなにをしていたものなのか、とうとうおれはさいごまでしらずに学生生活をおえてしまった。うわさによるとレイハイとかザンゲ聴聞とかそういうあやしげな行動をとっているらしかったのだが、ほんとうのところはしらない。なにはともあれ、ヒマそうなひとたちだった。たぶん、ヒマをもてあましたのだろう。クリスマスがちかづいた、ちょうどいまくらいの季節、チャペルがクリスマス・コンサートというのを構内の大ホールで主催するという話がまわってきた。
→バカロック。それがおれたちのやっていたジャンルの音楽である。このバカロックにも、クリスマス・コンサートへのご招待がきた。だしてくれるというのなら健康センターのブタイにだってたつ、それがバカロッカーである。おれたちは快諾をし、たんねんに準備をすすめ、そのとうじつがやってきた。さいしょに出演したのがたしか、グリークラブである。白いカッポウギみたいな服をきた、白い帽子をかむった、なんだかどこかの食堂の厨房みたいな集団があらわれて、荘厳な宗教的陶酔のなか賛美歌を合唱しはじめた。それもユニゾンで。むろんバカロッカーには理解不能である。ただぽかんとくちをあけてながめていた。そのつぎがおれたちの出番である。バカロックのひとつの宿命というか使命というかお約束として「イデタチに凝る」というのがある。このときおれたちがえらんだのはクークラックスクランのイデタチであった。KKKというやつですね。あの、目のとこだけアナをくりぬいて、あたまの先がとがったズキンをかぶるアレ。この格好をしてステージにあがり、オルガンが「ブラックサバ〜ス」(そういう曲がある)のフキツなセンリツを演奏しはじめた。それにのってボーカルがホール最後部のトビラから十字架をせおって登場するという段取りどおり、ボーカルがあらわれた。ボーカルはこの冬のくそさむい季節に、すっぽんぽんで腰に布キレを一枚まいただけのイデタチである。なんでそんなことをせねばならんのかというと、だからこれはもうバカロックの宿命なのだというほかはない。バカロッカーの血がそうさせるのだというほかはない。ところがこのばあい、われわれはひとつたいへんなシッパイをしてしまった。ボーカルの背負っている十字架があまりにでかすぎたのだ。タテが5メートルくらい、ヨコが2メートルくらいある十字架を、この日のためにわれわれはせっせとこしらえておいたのだが、これがあまりにデカすぎるため、通路ぞいの客のアタマをばしばしとヒッパたいてしまうのだ。なにしろ観客は前方のステージのほうをむいている。ボーカルは後方から十字架をかついでエッチラオッチラあるいてくる。この十字架の右手と左手が、通路ぞいの観客のうしろアタマをつぎつぎと、イヤというほどひっぱたいてしまうのだ。図で説明するとこうなる。
図中、でかいヤジルシが十字架の進行方向であり、○が通路ぞいの席にすわった一般客のアタマであり、「C」というヤジルシのつけられた●がチャプレンのアタマである。チャプレンはチャプレンの格好をしているからハタからみてもすぐわかる。ステージのうえからおれたちは、十字架が通路両がわの客のアタマを順にひっぱたきながらチャプレンにちかづいてゆくのを手にあせにぎってみまもっていたのだが、やはりチャプレンのアタマも見事にひっぱたいてしまった。まさかチャプレンも、クリスマス・コンサートの晩に十字架でひっぱたかれるとはユメにもおもっていなかったろう。ひどいことをしてしまったものである。しかし、そこまでやるとさすがに観客席からしのびわらいというものがモレはじめた。客席のようすをみわたすと、アキレとるもの5割、アキレはてとるもの4割、わらっとるもの1割、といった感じである。バカロックとしては上出来の観客分布図である。ボーカルがステージにあがり、巨大十字架をドラムのうしろのカベにたてかけ、おもむろにあいさつをした。「こんばんは。それではやります。ブラックサバスのコピーで『血まみれの安息日』。きいてください」きいてくださいといったって、そんなのチャプレンを筆頭としたほとんどのひとたちはぜったいにききたくなかったにちがいない。あるいはそれともチャプレンは、十字架にひっぱたかれたショックで失神していたのかもしれない。よくわからない。ともかくわれわれは血まみれの安息日を演奏した。なんでチャプレンのまえでそんなのを演奏しなくちゃならんのかというと、くどいようだがそれがバカロックなのだ。そうというほかにない。そうしてそれだけを演奏して、演奏がおわるととっととにげてきた。この「とっとと逃げる」というのもバカロックの鉄の掟のひとつである。じつはこのあと、つぎの楽団の演奏中に巨大十字架がぶったおれてドラムセットを破壊してしまい、コンサート続行不能の事態におちいったそうなんだけど、おれたちは逃げたあとなのでしらない。そういうこともあるのだから、でばんがすんだらとっとと逃げるのがバカロックの常道である。
→さすがにコンサートそのものを続行不能にしてしまうというのは、いかにバカロックとはいえちょっとひどい。バカロックにムエンなカタギのひとたちをまきこんでしまうのは、われわれとしてもあまりのぞむところではない。ていうか「そりゃあんまりだなあ」とあとになって話をきかされておれたちもちょっとびびった。チャペルからよびだされて文句でもたれられるかとおもっていたのだが、さすがチャペル、こころがひろい。なんの文句もこなかった。もしかしたら「これいじょう相手にしないほうがいい」と判断したのかもしれない。わからない。ともかくチャペルからの苦情はなく、クリスマスの晩におれたちは巨大十字架を破壊してたき火をし、それにあたって聖夜をいわった。
→もちろんおれたちのサークルがクリスマスコンサートによばれたのはこの年がさいごであり、そのごはけしてよばれることはありませんでしたという、バカロックのこころあたたまるエピソードをひとつ、ご紹介しました。メリークリスマス。
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