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●水戸街道フジシロあたりでは、パソコンを所有しとるというただその一事をもってして、ソフトウェアのあたまのてっぺんからハードウェアのあしのうらまでもうなにからなにまで知り尽くしていると思われてしまうのか、そんなことはないのだろうけど、それにしたってどうみてもあさっての方向をむいた購買意欲に脳みそをぐつぐつと煮えたぎらせた質問の電話がかかってきたりする。
「お〜、クリタか〜、おれだあ、おれだあ」
●読んどるかたがたのためをおもって日本語に翻訳してあるが、もう地獄的にひどい茨城ナマリの電話である。
「あ〜、なんだ〜?」
「あのよ〜、シ〜デ〜ロムってあるべえ。パソコンかったらよ〜、あれにビデオをダビングできんのか〜?」
「ビデオ〜? デジタルビデオか〜」
「あ〜、なんだそれ〜」
「だから〜、なんのビデオだよ〜」
「ビデオはビデオだっぺよ〜。映画とかの〜」
「ブイエッチエスのか〜」
「んだ〜〜〜」
「エロビデオか〜」
「んだ〜〜〜」
「それをシ〜デ〜にしたいのか〜」
「んだ〜〜〜」
で き ん っ っ っ 。
●おもわずそう叫びたくなるけど、それもあんまりだ。いやもちろん、やればできるんだろう。それに必要な装置をそろえ、それ相応の操作をすればできるんだろう。だけど、おれにはそんなデバイスもソフトウエアもノリジもモチベーションもインターフェイスもランダムアクセスメモリーもジャバスクリプトもへったくれもない。いちおうすこしハッタリかまそうかとおもってカタカナをいっぱい並べてみたけど、後半はなんのことだかさっぱりわからない。こんなにわからないんだからおれにはできない。おれにだってできないんだから、おまえにだってできん。そういう意味をこめておれは、あいまいにこたえる。
「あ〜、それはやめといたほうがよかっぺ〜」
「あ〜、それはできねえっつうことか〜」
「やればできっけどな〜。フラグメンテ〜ションをUSBポ〜トにインスト〜ルしてCPUの赤目補正をしなくちゃだめなんだ〜。おめ〜、そんなのできっか〜」
「な、なんだそら〜」
「できめ〜」
「できね〜」
「だけどな〜、シ〜デ〜じゃなくて〜‥‥」
●とつぜんだけどここで質問です。このあとわたしがかれに提案したのはなんだったでしょう。つぎの1.〜3.からえらんでください。
1.デ〜ブイデ〜
2.ビビデバビデブ〜
3.ププッピドゥ〜
●あ。韻をふめばいいってもんではないそうなのでふまなかったのだが、なんのことだかますますわからなくなってしまった。わからないひとのために説明すると、ププッピドゥ〜というのはマリリンモンロ〜です。っていよいよわからないじゃないか。すまん。ともかく正解はデ〜ブイデ〜です。
「‥‥いまはデ〜ブイデ〜つうのがあんだ〜、それならできそうだ〜」
「そらいくらすんだ〜」
「一千万くらいか〜」
「いっせんまん〜?」
「うそだ〜」
「うそか〜」
「だけど高いど〜」
「高いか〜、そらだめだ〜」
「だめか〜」
「だめだ〜」
「んじゃあきらめろ〜」
「でもよ〜、あとよ〜、パソコンかうとなにができんだ〜」
●ここでやっとおれは電話の意味がわかる。ようするに、パソコンが欲しいのだ。意味もなく。でも、買うからには、なにに使うのか、その理由が必要なのだ。そうじゃないと自分も納得できないし、ヨメさんも説得できないのだ。
「なんでもできら〜」
「たとえばなんだ〜」
「ゲ〜ムだ〜」
「プレステだってできっぺ〜」
「家計簿もできら〜」
「パソコンじゃなくたってできっぺ〜」
「音楽だってきけら〜」
「すてれおだってきけっぺ〜。おれがききて〜のは〜、パソコンじゃね〜とできね〜よなんだ〜」
「ほんなのしんね〜」
「ほ〜が〜」
「ほ〜だ〜」
「そんで〜、パソコンはなにがいいんだ〜」
●あまりにぐつぐつと煮えたぎった質問の連発に、しまいにはおれの脳みそまでぐつぐつと煮えてくる。煮えたぎったいきおいで電話をたたっきりそうになるのを、くちびるをかみしめておれはこらえる。
「なんでも似たりよったりだ〜、すきなのかえ〜、すきなの〜」
「きょうデンキヤいったんだけど〜、いっぱいありすぎてわかんね〜」
「なんでもおんなじだ〜。やすいのかっとけ〜、やすいの〜」
「やすいのか〜」
「んだ〜」
「ほ〜が〜」
「ほ〜だ〜」
「んじゃね〜ありがと〜」
「お〜」
「おやすみ〜」
「おやすみ〜」
●おやすみ。電気羊の夢でもみなさい。
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