[2000年8月25日] ちしき
菓子パン(あさ)
中華丼(ひる)
みそラーメン。チャーハン(ゆう)

●学生のときに、同級生の女の子に「モーツァルトの譜面をかってきて」とたのまれた。神保町には譜面屋さんというのがあって、おやすいごようだとおれはひきうけた。ところが、あんのじょう譜面屋さんについたときには、どの譜面をたのまれたものだか、さっぱりわすれているのに気がついた。Kの339番だったか、336番だったか、だいたいそのへんだったような気はしたんだけどはっきりしない。そもそもこういう番号で曲を区別しようというそのやりかたが気にいらん。おぼえづらいことこのうえない。歴史の年号を暗記するんじゃないんだから、曲はぜんぶタイトルでよべ、タイトルで。ブラックサバスだってピンクフロイドだってなんだって、曲にはちゃんとタイトルをつけてるぞ。バカなタイトルだけど。いちいち曲名をつけてくれてるからおぼえられる。すこしはみならったらどうなんだ、モー。と、本棚のまえでいきどおってみても番号をおもいだせるわけはないので店のひとにたずねる。
「あのう、モーツァルトの譜面をたのまれたんですけど」
「はい、モーツァルトのなんですか」
「それが、番号わすれちゃったんです」
「えっ、番号をわすれた? それじゃわかりませんねえ」
「たしか330番くらいだったとおもうんですけど。そのへんで、ピアノでひきたくなるようなのってないですか」
「そういわれてもねえ」
といった問答を本棚のまえでしていると、三十代くらいのネクタイをしめたひとがいて、そのひとも客で本棚を物色してたらしいんだけど、「あのう」というかんじで話しかけてきた。
「モーツァルトの330番くらいですか? それをたのんだのはどんなひとですか」
「わかい女の子です」
「楽器はピアノですね」
「はい」
おれがこたえると、ああ、それじゃたぶんあれですよ、といって番号をおしえてくれた。いわれてみると、たしかにそんな気がひじょうにする。いまではなん番だかわすれたけど。とにかくそのときはひじょうにそんな気がしたので、それをかって、学校で彼女にわたすと、たしかにそのとおりだった。世の中にはいろんな知識があるものである。そして彼女はその日の授業がおわったあと、教室に搬入したエレピで、おれと、そのほか数人の仲間たちのしつこいリクエストにこたえて、てれながらモーツァルトを演奏してきかせてくれたのだった。それはすばらしい曲だった。おぼえてないけど。なん番だったかもわすれたけど。
●むかし、譜面がCDとおなじ意味をもっていた時代っていうのがあったんだよね。むかしは、CD屋さんのかわりに譜面屋さんていうのがあって、みんなそこで譜面をかってかえって、演奏してたって、だれかにきいた。そうやって曲が流行する時代があったんだってさ。

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