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「クリタさんおひさしぶりい」
「うわ」
「なによお、うわって」
「ナミちゃんくろくなったなあ。まえからくろかったけど、ますますくろくなった」
「いえ〜い」
「しかしおまえ、いくらなんでもくろすぎないか」
「まだまだだよこんなの」
「もうじゅうぶんだよ、おまえ夜道をあるくときは気をつけろよ」
「なんで? おそわれちゃうから?」
「おそわれるまえに、みえねえんだよ。ちかごろのお姉ちゃんはくろいのがおおいから、夜にクルマ運転してるとあぶなくってしょうがねえんだよ、みえなくて」
「あははは、みえるって、いくらなんでも」
「でもさあ、ここまでくると、もうくろはおわりだね」
「どういういみ?」
「くろいのがいいのはおわりだねってこと」
「なにいってんの、えらそうに」
「いやおれもだてに女の子のしりを四十年もおいかけてないからね、女の子の流行にかんしては、もうわかっちゃってるからね」
「へえ。じゃこのつぎはなにがくるの」
「きまってるじゃん。しろだよ」
「いいかげんなことを」
「いいかげんじゃないよ。ちゃんと理屈がある」
「どんな」
「だいたいハヤリっていうのはさ、じょじょにエスカレートしていくんだよ」
「ほうほう」
「たとえばこういうくろいのにしてもね、みんなしてくろくなりだすと、どんどんくろくなってっちゃうんだよ。競争意識みたいなものがはたらくからね。そうやってだれもがくろくなると、もうほどほどというのがわかんなくなっちゃうんだよ。いっそくろければくろいほどえらいってことになっちゃうんだ」
「なるほど」
「ところがこれがいきつくところまでいっちゃうとなぜか、正反対のやつがでてくるんだな。そこがハヤリのおもしろいところでね。極端から極端へ、なぜか正反対にはしるんだよ。くろのつぎはしろだね。これはもう、まちがいないね」
「ほんまかいな」
「ほんまほんま。ちかいうちに、みんなして顔面マッシロにぬりたくった女の子たちがまちじゅうにあふれることになるね。もうその時代はすぐそこにきてる」
「ふうん。ねえねえ、あとはなにがはやるの」
「あと? あとはなんだろう。とくにこれといって目玉はないけど、そうだなあ、たとえばこの目のまわりのクマドリ」
「うんうん」
「これなんかはまだいきつくとこまでいってないからね」
「まだまだなんだ、これは」
「うん。いまはまだ目のまわりだけだろ? これじゃまだまだだ。顔のはんぶんくらいクマドるところまでいくよ、これは」
「それはいいすぎじゃない?」
「だけどほら、くろいのにしたって、くろければくろいほどよくなっちゃったわけだろ。クマドリにしたって、クマドってればクマドってるほどえらいってことになるんだよ。じっさいもう、顔の3分の1くらいはクマドってるのがいるだろ」
「いないよそんなの」
「いるって」
「んで、あとは?」
「あとは、厚底かな」
「これはどうなるの」
「これもまだまだだね。厚さが」
「え。もっと厚くなっちゃうの」
「うん。こんなもんじゃないね。もっともっとなるね」
「やだなあ。あるきづらいんだけどなあ、これ」
「それそれ。あるきづらければあるきづらいほどいいってことになってくね。厚いだけじゃだめで」
「たとえば?」
「靴底がトゲトゲになっちゃうとかね」
「そもそもあるけないし、そんなの」
「そこをなんとか」
「しかもたのんでるし」
「しょうがないよ。ハヤリなんだから」
「髪型なんかはどうなっちゃうの? なにがはやるの?」
「これはもう、ロングだね。しかももじゃもじゃ」
「もじゃもじゃ? なんで?」
「なんでもなにも、そうならざるをえないね」
「えないねといわれても」
「おまけにてっぺんのほうだけちょっとむすんだりとかね。トータルコーディネイトとして」
「どこがトータルじゃ。あのねえ、ぜんぜん想像がつかないんだけど」
「つかない? おれはつくけどな。もう、イヤんなるくらい、ありありとアタマにうかんでる」
「うかぶの? ほんとに?」
「ほんとにうかんでる。ただ‥」
「ただ、なによ」
「うん。ただね。みんなしてこの格好でまちじゅうあるかれるというのは、さすがにおれも、ちょっと‥」
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