[2000年11月24日] レ
菓子パン(あさ)
魚のあげたのの定食(ひる)
ラーメン。ビール(ばん)

 女の子の手帳をみせてもらったりすると、日付の横にハートのマークがついてる日があったりして、わけもなくドキドキする。それは毎日ついているのではなくて、ついていたりついていなかったり、また、その数も一個だったり三個だったり、日によってまちまちで、そういうのがあると、あとは興味しんしんとなってその数を数えてしまう。これはもう、だれだって、数えずにはいられないとおもう。ハートが二個ついている日が三日くらいつづいていると、「おっ、がんばってるな」と思ったり、逆にハートがない日が三週間くらいつづくと、「けんかしたのかな」と心配になったり、まあ、余計なお世話なんだけど、そうやって手帳をめくっていると、とつぜん、ハートが十五個くらいついている日があって、おもわず「えっ」となって、彼女の顔をまじまじとながめると、彼女はちょっととくいげな表情になって、ふふんとはなを鳴らしました‥‥というのはうそですが、そんなこんなでひとの手帳をみるのはけっこうたのしかったりする。
 けっこうまえなんだけど、部長の手帳というのをひろってしまった。手帳のおしまいのページにしたためられた筆跡もまがまがしいそのサインは、わが直属の上司であるところの部長である。ゴルフやけのまぶしい、接待のシメは風俗とおもいこんでるフシのある部長なんである。このひとの手帳をトイレの床でひろってしまった。上司おもいの部下としては、これはもう、みないわけにはいかない。やはり上司の日常とはいかなものかをしっておくのは、これはもう部下のたしなみなんである。そういったけだかい使命感にかられて手帳をめくると、日付の横にレ点のついてる日がある。それは毎日というわけではなくて、三日おきだったり、五日おきだったり、それくらいの、なんていうか、微妙な間をおいてついている。なんだこれは。どういう意味なんだこれは。おかげでおれはそれからしばらく、妄想の渦のなかにたたっこまれてしまった。これが十八歳の女の子の手帳についているハートマークならその意味するところはあきらかなのだが、推定五十歳のおやじの手帳についているレ点となると、前者のハートと同列に論じてしまってよいものかどうかはちょっとむずかしいめんがある。でも、もしかしたら、というめんもある。もしかして、前者のハートと意味するところがおなじなのだとしたら、おれはどうしたらいいのだろう。いいのだろうもなにも、おれにはどうしようもないんだけど、でも気になる。その意味するところはなんなのか、真実をつきとめずにはいられない。かといってまさか、部長にめんとむかってたずねるわけにもいかない。部長に手帳をつきつけて、ときに部長、このレ点はなんですか、とたずねたりしたら、最悪の場合、モザンビーク支社に転勤ということだってありうる。いやそんなものはないけど。とにかくそんなわけでそれからは部長の顔をみるたびにレ点のことが気になって、もともと手につかなかった仕事がいよいよ手につかなくなってしまった。もしかしたらおれは、しってはいけない上司の秘密をしってしまったのかもしれない。だがだれにもうち明けられない。そういう気もくるわんばかりのもんもんとした日々をおくることになって、そしていまだに仕事は手につかない。

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