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十日ばかりまえにオフというのに参加させてもらったのであった。オフというのは、しらないひとはいないとおもうけどいちおうかいておくと、インターネットの掲示板なりなんなりでしりあったひとたちがじっさいにどこかでまちあわせてあつまって、ひざをつきあわせて談笑しましょうというあれである。ときどき居酒屋だとか夜の山手線だとかで、とんでもない呼び名でおたがいを呼びあっているあやしい集団がいるけど、ようするにあれである。もちろんおれは「ぽいうさん」と呼ばれてしまうのであった。ぽいう。じつはおれはインターネットをはじめてからオフらしいオフに参加させてもらうのははじめてで、といってもオフらしいオフというのがどういうオフなのかはわからないけど、とにかくオフデビューなので、緊張してがちがちになってしまってとうとう一言もしゃべれずじまいだった。というのはもちろんうそで、まあいつもの調子でへらへらしていたんだけど、オフそのものがひさしぶりで、おもしろかった。オフというのはやっぱり、なんとなく気があうどうしがひかれあってあつまるもので、おたがいそれなりに気心はしれているんだけど、でもそれまで顔をあわせたことのない同士なんだから気恥ずかしさもある。そういう、うれしはずかしの独特な雰囲気というのがあって、かんがえてみるとおれはけっこうそういうのはすきだったのをおもいだした。インターネットのべんりなところのひとつには、そういう気のあうひとだとか趣味のあうひとだとかが簡単にみつかるというのがある。そうして、ときには、まるで鏡をみてるんじゃないかとうたぐってしまうような、じぶんそっくりなひとをみることもある。とおもう。
かつて、じぶんそっくりのひとと毎日のようにBBSで話をしていたことがある。外見がということではなくて、つづる文章がにてるということなんだけど、文章がにてるということは、そもそも根本的な、ものごとのうけとめかたとかそこからおもいつくこととかがにてたということなのかもしれない。もちろん文章ははじめからそんなににてたわけじゃない。まったくちがう土地にうまれ、ちがうひとにかこまれて、ちがう本をよみ、ちがう音楽をきき、そういうちがった環境にそだってきたんだから口調だとかなんだとかはちがっている。ところがなにかの偶然で、もしかしたら必然で、おなじBBSででくわして毎日のように話をし、おたがいの書き込みをよみあっているうちに、おたがいに影響されあって、どんどんにかよってしまった。だいたいおなじBBSで話をしてるメンバーというのはだんだんと口調がにかよってしまうものだけど、いくらなんでもというくらいおなじになってしまった。黒と白のえのぐをまぜたらひとつの灰色になるみたいに、やがておれたちはおたがいにひとつの灰色になってしまった。彼女とであうまでは、それは女の子だったので彼女なんだけど、彼女とであうまではおれもこんなかんじの文章ではなかったとおもう。ちかいものはあったとおもうが、でもこうではなかった。それが彼女とであい、おたがいに影響されあっているうちにふたりしてこんなふうになってしまった。だからいまおれがここでかいているこの文章のスタイルというのは、彼女とおれがふたりできずきあげたものだといえる。こんなものをつくりあげたくはなかったと彼女は本心からいうだろう。おれだってそうだ。でもなっちゃったんだからしょうがない。こういうのはふしぎなものだとおもう。ふだんの実際のしゃべりかただとか、行動だとかはいぜんとかわらないし、彼女だってそうで、そしておれと彼女のそれはそんなに共通したものはないのに、ただボード上の文章だけがすこしずつかわっていってやがておなじになってしまった。おしまいにはもう文章だけだとどっちがかいてるのかみわけがつかなくて、おれでさえときどき書き込みのうえについてるハンドルネームを確認するほどだった。というのはさすがにうそだけど、周囲のひとたちにはけっこうあきれてるひともいた。はたでログをよんで、彼女とおれが同一人物で、ひとりでふたつのハンドルネームでかいているのだとしんじてうたがわないひとがいたという話をきいて腹をかかえてわらったこともある。でも実際のところ、たしかに気味がわるいほどおれたちはおんなじ口調でおんなじようなことをかいていた。そしてそれいらい、ずうっとこんなかんじの調子でこんなかんじのことをかいている。だから、いまのわたしに影響をおよぼしてくれたりっぱなひとというと、おれはまっさきに彼女をおもいうかべて感謝をささげるべきなのかもしれない。いやまて。感謝はささげる必要はないな。でもおもいうかべるくらいだったら、これはまあしょうがないかな。
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