[2001年07月29日] 社長を見舞う
山菜そば。天丼。ひじき(ひる)
豆腐。かぼちゃ。なすのみそ汁。めし(ゆう)

 社長が入院をしたというので見舞いにいった。なんでも睾丸がマラカスみたいにぱんぱんにはれあがって、あるくことさえままならないのだという。社長は高校のころの同級生で、それいらいのつきあいなのだが、なにかのまちがいで社長になってしまっただけなのであって、だから社長というのはたんなるあだなくらいにおもってればいい。だいたい制服姿の女子高校生を社長室につれこんでパンツをおろすのが夢で、そのために社長なったのだがいまだに社長室がない、はやいとこもうけて社長室をつくらねばとかたっていた社長なので、ちっともかしこまる必要はない。みせで腐りかけの果物の盛り合わせをかって、社長の病室をおとずれた。睾丸がぱんぱんのわりに社長はおもいのほか元気で、なんのつもりかおれにむかってしきりに刑務所へいけとすすめる。ベッドのとなりには社長のヨメさんもいて、いやな顔をしてるんだけど、そんなのはまるで眼中にないようすでしつこくすすめる。
「いやクリタ、刑務所つうのはいっぺんいっておくべきだよ、あんなためになるところはねえからいまのうちいっとけって、わるいことはいわないから」
 どうかんがえてもわるいことをいってるようにしかきこえないんだけど、本人はいたっておおまじめである。
「ぜったい勉強になるから、だまされたとおもっていってみろよ、じんせいかわるから」
 たしかにじんせいはかわるかもしれないが、かえるつもりは毛頭ない。はっきりとそうことわるのだがききいれてくれない。社長は入院するまえに刑務所でおつとめをすませてきたばかりで、どうもそこでなにかすばらしいじんせい勉強をしてきたとおもいこんでるらしい。刑務所暮らしの経験というものがいかに男のじんせいに必要不可欠であるかをさかんにとく。ついでにいうと刑務所のまえは鬱病になって病院がよいをしていて、そのときも鬱病経験というのがじんせいにいかに必要かを力説していた。社長はどうもなにをしでかしても反省をするということがないのであって、すべてをまえむきにとらえてじぶんの男をみがくのにいい経験をつんだととらえてしまう性分であって、おのれひとりが勝手にそうおもってるだけならいいんだけど他人にまですすめだすというのはしょうしょう害がある。鬱病だの刑務所だのを健康法をすすめるみたいに気楽にひとにすすめてくる。このぶんだと睾丸をはらすのもそのうちすすめだすかもしれない。ハタ迷惑な男である。でももっともその被害をこうむってるのはヨメさんである。なにしろちっとも家にはよりつかず鬱病になったり刑務所にいったり睾丸をふくらましたりしてるんだからヨメさんもたいへんだ。そうおもって、社長などほっといてちょっとヨメさんをねぎらっておくことにした。ヨウコさんもたいへんだよね、社長がこの調子じゃこのさきおもいやられるね、とヨメさんに話しかけると、そうなのよもうほんとばかでこまっちゃうのよ、とちからづよくうなずく。でさ、鬱病と刑務所と睾丸はどれがいちばんなさけなかった? ときくと、う〜ん、とヨメさんはしばらくかんがえこんで、やっぱり刑務所はまずいよね、さすがにあいそもつきたよ、とこたえたあと、ところでクリタくんはどうして結婚しないの? とおれにきいてきた。どうしてもなにも、理由なんてないよ、ただのなりゆきだよ、とこたえると、とつぜんヨメさんはむすめの顔つきになりだして「あのさ〜、いっそわたしと結婚してくんない? もうつかれちゃってさ〜」とあまりといえばあんまりなことをいいだすものだからおれはあぜんとした。社長もあぜんとしている。ふくらんだ睾丸が音をたててしぼんでくくらいびっくりしてるみたいである。けれどもヨメさんだけは平気ならしくて、おれにほほえんで「ねえ? どう?」とくりかえすので、おれはしどろもどろになってしまって、「やや、これはいかん、もういかなくちゃ、じゃあおだいじに」とあわてて病室からにげだしてきた。まったくこのじんせいにはときどき藪から棒なことがあるからこまるという社長お見舞いの話はこれでおしまい、ついでにみんなには暑中お見舞い申しあげます。ぽいう。

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