[2001年09月27日] レミー
うぐいすパン(あさ)
コロッケ定食(ひる)
焼いた肉塊。サラダ。めし(ばん)
 ながねんのユメがとつぜん現実のものとなるときニンゲンはなにをおもうのか。おれのばあいはなにもおもわなかった。ただぼうぜんとくちをあけ、ついでにすこしだけチンポコをうずかせたのみである。というわけで大学にはいったとしの、秋になりかけの季節の夜中にとつぜん、アパートの部屋のドアをノックされたことがあるのね。平和な夜でさ、静寂につつまれておれはおとなしく安眠をしてたんだけど、深夜も深夜、二時ごろになってどんどんどんどんどんってノックされて、こんな時間になんだなんだとおもってでてみたら、そこにはうつくしい女の人がたってるわけ。ドレス姿のさ。ユメだろうこれは。男子のユメだろう。そりゃまあおれだってね、世界じうのひとたちが平和にしあわせにくらせる社会をきずくぞっていうユメもあるけど、そのいっぽうで、夜の夜中にきれいな女のひとが部屋にたずねてくるっていうユメもあるわけで、とつぜんその後者のユメがかなってしまった。しかも彼女はおれにむかってにっこりとほほえんで、「起こしちゃってごめんなさいね、ちょっと、お時間いいかしら、わたしのあとについてきてほしいの」なんていうわけよ。おれなんかもうネオキだっつうのに全身のケツエキがいっきにカイメンタイに集中してどっくんどっくんナミうっちゃってさ、いったいなにが我が身に起こってるのかはわからないんだけどどうもなんだかスバラシイことがはじまりつつある気がしちゃって、もしかしたらこのひとはマチカドでおれとスレ違ったときにおれにヒトメボレしちゃってそのままおれのあとをつけてきて、ドアのまえでさまざまなカットウとたたかいつつ、「あああのひとはだれなのかしらもういちど会いたい、会ってお話をしたいそして抱きしめてほしいの、だけどとつぜんおしかけちゃったりしたらヘンにおもわれないかしら、そうよきっとヘンにおもわれてしまうわ今夜はやっぱりやめておきましょう、ああ、でもでも、ダメよやっぱりもういちどだけあのお顔がみたいの」なんて三時間も悩んだすえにドアをノックしちゃったのかなあなんておれは0.2秒のあいだに考えたりとか、期待にムネをわくわくさせつつついでにチンポコもわくわくさせつつイソイソときたないジーパンをはいておねえさんのあとをのこのこついてったわけよ。夜中の二時に。


つづく





 とかいいながらおもいきりさらに話はつづいてしまうんだけど、そうやっておれも期待に胸をふくらまし、したごころに下半身をふくらましつつそのひとのあとにくっついてったわけ。ところがさ、そのひとがつれてってくれたとこっていうのは、おれの部屋のましたのカラオケスナックだったのよ。うん、おれの部屋のましたにはカラオケスナックがあってさ、まいばんまいばん夜になるとどろんどろんによっぱらったうたごえがきこえてきてそれになやまされてたんだけど、そのひとはさ、そこにおつとめしてるひとだったのね。そんときはじめておれはそのみせにはいったんだけどさ、なんつうかなあ、もう、アカムラサキ色のぶあついジウタンがびろ〜んなんてしきつめられててさ、インビな色の照明がちろちろちゃってさ、ミラーボールがぐるぐるぐるぐるなんてまわっちゃってて、ほんと夢のようなの。ずぶずぶとしずみこんじゃうようなソファがあって、そこに腰かけると女のひとがおしゃくしてくれるっていう飲み屋にいったのは、それがはじめてだったのね。そもそも、女のひとがおしゃくしてくれる飲み屋にいったことがなかったのよ。まだ十九だったし、カネもなかったし、目にうつるものすべてが新鮮でおれはもうひとりコーフンしちゃってさ、ドキドキしてたんだけど、平日の深夜だったから客なんてほとんどいなくて、がらんとした店内を案内されて席につくと、そこにはグデングデンによっぱらったおねえさんがいたの。そのひとのこと、おれ、しってたのよ。そのひとっていうのはさ、ビルを管理してる会社のおねえさんなの。おれがいつも家賃をおさめにいくおねえさんだったのね。そんでなんどか家賃をおさめにいってるうちに、だんだんとつっこんだ世間話とかもするようになってて、彼女はいるのかとかきかれてさ、いやそんなのいないっすよなんておれがこたえて、こんど機会があったらお酒を飲みにつれてってくださいよなんておれもお願いしちゃったりしてね。なんだかきれいなおねえさんでさ、そそられるモノがあるのよ。中学だか高校だかのときにハバトビだかタカトビだかの県大会記録保持者だったそうで、すらっとしててさ。おれなんかつねにシタゴコロだけはうしなわないやつだからさ、ここぞとばかり好青年ぶっていい印象をもってもらおうとふるまってたの。じつをいうとそのころけっこうおれ、としうえのおねえさんにうけがよくてさ、浪人してたころにも似たような経験があって、おれは研数学館っていう予備校にかよってたんだけど、そこで事務員してた七つくらいとしうえのおねえさんと個人的にしたしくなってさ、予備校がおわったあとでときどきメシを食べさせてもらったりとかしてたの。ひそかにおれも淡い恋ごころをいだいたりしててさ、それでなくてもトシウエの女性なんつったらなにかこう胸ときめくものがあるし、おまけに事務員さんはなにかとおれをかまってくれるし、これで好感をいだかないはずないだろ? うん、はつ恋だったのよ、おれの。なんかいめだかわすれたけど。そんでそのはつ恋の事務員さんのまえではおれも、おもいっきり純情ぶってたからね、そういうキャリアがあったから、そういうのはすでにおれの得意分野のひとつだったのよ。そのおれのワザにこのときのおねえさんもコロリとだまされてたみたいでさ、おれの部屋のましたのスナックに飲みにきて悪酔いしたイキオイで、みせの女のひとにおれを呼んでこさせたっていうのが真相ならしいんだ。ところがさ、このおねえさんがほんと、めちゃくちゃ悪酔いしててさ、やけにからんでくるのよ。えんえんとグチとかこぼしちゃってさ。みせのひとたちも相手するの疲れちゃってサジ投げちゃってるみたいで。なんかどうもふだんからよっぽどつまんない生活をおくってるみたいで、そのウサを酒におもいっきりぶつけてるわけ。とうにんはそれで気がすむかもしれないけど、まわりにいあわせたほうはたまったもんじゃないだろ。それでもおれってけっきょく、そんなときまでじんるい愛のやつだからさ、ちゃんと相手して話きいてあげて、はいはいってアイヅチとかうってやったりしてたの。ほんとほんと、ちゃんと相手してやったのよ。そのときおねえさんが飲んでたのはレミーマルタンていうブランデーでさ、それをすきなだけ飲んでいいっていうから、そんな酒おれそれまで飲んだことがなかったし、なにやら高級そうなビンにはいっててさ、ひとくち飲んだらこれがジュースみたいにあまくて、うわああこれが高い酒というものかあ、ここで飲んどかないとこれからさき、いつ飲めるかわかったもんじゃないぞうなんておれもわけもわからずノドに流しこんだりしてね、いやほんと、そのころのおれにしたらブランデーなんつったら盆と正月が1ダースくらいタバになってこないと飲めないような、たいへんな高級酒だったのよ。そういう酒をタダで飲ましてもらうんだから、グチのひとつやふたつを聞いてやるのはしょうがないよなあなんておもってね、話をきいてやったの。おねえさんもそれまで誰も相手にしてもらえてなくて、床にむかってバカヤローとかつぶやいてるばかりだったのが、とつぜんおれというスバラシイ聞き手をえちゃったからだろうな、またイキオイづいて語りだしちゃってさ、語りつつもぐびぐび飲んで、しばらくするうちにおねえさんはしどろもどろで足腰たたなくなっちゃって、おまけにちょうど閉店になっちゃったのよ。それでおれたちもみせから追い出されちゃってさ、まったく都会の人情はうすいというかさ、だってそうだろ、おねえさんはもうまともにロレツもまわんないくらい酔っててさ、とうぜんみずからのあしで立つことだってままならないわけで、そんな状態のにんげんを、ていうかにんげんをそんな状態にさせるまで飲ますだけ飲ましてカネはらわして、閉店だからといってそとにおいだすというのはなにかまちがってやしないかとおれは主張したかったんだけど、どうせそう主張したところでだれもきいてはくれないし、かといってそのままほっとくわけにもいかないし、しょうがないからおれの部屋につれてってやることにしたんだ。おねえさんかかえてさ、えっちらおっちら階段をあがって、ところがおれもイッキに大量の酒を飲んだもんだからいっぺんに酔いがまわってきてて、死ぬかとおもったよ。そんでおれの部屋にたどりついて、おれのフトンにおねえさんをねころがしたら、こんどはコーラがほしいとかいうのよ。おれもとことんつくすやつだからさ、おもてへでて自動販売機でコーラを買ってもどってきた。そのときはもう、正直いっておれはかなりアタマにきてたね。だって、いくらなんだって、メイワクにもホドがあるだろ? 夜中にたたきおこされてさ、エンエンとなんだかわけのわからんグチ聞かされて、おまけにおれのフトンつかわしてやってコーラまで買いにいってあげてさ。こんなのほんと、じんるい愛のおれじゃなかったらやってられないよ。だけどさ、さすがにおれもアタマにきて、いまはしょうがないから世話やいてやるけど、あとで酔いがさめたらぜったいになにか見返りは要求しようなんてこころひそかにおもいながら部屋にかえるとさ。おねえさんがいないのよ。げっとかおもってさがしたらね、トイレにいたの。しかもさ、便座のうえにキチンと腰をおろして、そんでね、涙をひとしずく、つつ〜って流してるの。その涙がね、それがうつくしいの。びっくりするくらいうつくしくてさ、それでおれがひるんじゃってボーゼンとしてるとね、おねえさんがおれをまっすぐみつめていったのよ。「おとこはずるいよなあ」って。そのひとことでおれはなんだかぐらっときちゃってさ、たまらなくなっちゃってさ、おねえさんのことがたまらなくいとしくなっちゃって、そんでおれは我をわすれて、「なかないで」っていいながらおねえさんをだきしめてた。そのままスリスリなんて背中さすってあげてね、どれくらいそうやってたのかなあ、そのうちけっきょくやっぱり劣情の波にカラダをまかしてしまったんだけどね、うん、なにしろとうじのおれのチンポコといえばつねに新鮮な刺激に飢えてたしさ、それはいまでもそうなんだけども、とにかくまあやることやっちゃって、おねえさんはスッキリしたかおでよくじつおれの部屋をあとにした。そんで、どうもその一夜でおねえさんはあじをしめてしまったらしくて、それからもいくどか夜中に部屋をノックされて、ましたのカラオケスナックにつれてかれてタダ酒のましてもらうことになるんだけど、あとになってわかった話なんだけどさ、どうもそのおねえさんていうのはビル会社の社長のメカケだったらしいのね。社長にかこわれててさ、その会社ではたらかされてたらしいの。おまけにその社長っていうのもまたましたのカラオケスナックの常連だったのよ。殺人的にひどいこえのオヤジで、おまけにレパートリーが宇宙戦艦ヤマトしかないみたいでなんどもなんどもなんどもなんどもおれの気がくるいそうになるくらいくりかえしヤマトをうたってくれたオヤジで、おねえさんがそいつの愛人なんだとしったときにはおれもちょっとショックをうけちゃってさ、「オトナってフケツだっ」なんてイキドオったりもして、いまにしてかんがえてみりゃおれもじゅうぶんフケツなんだけど、やはりワカゲのイタリの基本はじぶんのことはタナのいちばんうえにあげとくものなので、おれもわけもわからずムカッパラをたてたりしたのよ。なにしろおれはそのおねえさんが泣いてるとこをみちゃったからね、どうしてもおれには「ただ酒を飲ましてくれるおねえさん=いいひと」「そのおねえさんを泣かすヤマトおやじ=極悪人」という図式でしかモノをかんがえられなくて、いつかおれもエライひとになって、かならずおねえさんをシアワセにしてあげるんだっ、なんてチカったもんだけど、しかしかんがえてみりゃそのチカイもほんの五分くらいで忘れてたわ。ごめんごめん。

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