[2001年11月12日] スモーク・オン・ザ・ウォーター
ブルーベリーなんたらという菓子パン(あさ)
かにチャーハン(ひる)
肉うどん(ゆう)

→おれがはじめて異性に交際を申し込む手紙を書いたとき、それは自分のためのものではなかった。クラスメートに頼まれてその代筆をした。そのときおれは突然そのクラスメートの家に呼ばれ、コカコーラやポテトチップスをふるまわれた。どうしたのだろうと目をまるくしていたところに、クラスメートがきりだしてきた。
「おれはイトウコズエが好きなんだが、おれのかわりに彼女に手紙を書いてくれないか。」
→それでおれは手紙を書いた。そんなのはお安いご用だった。そのころから他人に愛想をふりまくのは得意であり、そのころからおれのモットーは「富の再分配」だった。このばあいの富というのは愛想をふりまく能力である。そのときもクラスメートとイトウコズエに愛想をふりまいた。
→最初の手紙にどんなことを書いたものだか、その内容はもうおぼえていない。それでも、書きだしの文句だけはなんとなくおぼえてる。それはたしか、こんなだった。

 拝啓、突然の手紙におどろかれたことと思います。

→あとは適当。
→それからおれは半年以上にわたって、彼女になんども手紙を書くはめになった。電話をかけたことだってある。クラスメートにかけさせられたのだ。そのときおれはコズエちゃんに、一方的に電話を切られた。こういう発言のせいだ。
「あのね、わきの下の毛なんだけどね。」
「え?」
「あれ、剃ったほうがいいと思う。」
 ‥‥かちゃ。
→すこしまえに体育の授業でプールにはいったとき、おれは彼女のわきの下に毛が密生していることに気がついて、親切心からそれを注意したつもりだった。だから、そのときのおれにはなぜ電話を切られたのか、さっぱりわからなかった。ともかく、それからあとクラスメートはおれに電話をかけさせようとはしなくなった。その点は、おれにとってありがたいことだった。
→最後の手紙を書いたのもおれだ。その手紙の内容もおぼえていない。ただ、こんな一行を書いたようなことはおぼえてる。

 もう、こんなことはやめようと思います。

→あとは適当。
→ところでそれらの一連の災厄(としか表現のしようがない)のなかでおれがおもっていたのは、「バカじゃなかろか」ということだった。そのころのおれには、そのクラスメートのしていることがさっぱり理解できなかった。いったいなんのためにそんな手紙をだすのか、そのときのおれにはさっぱりわからなかった。なぜなら、そのときイトウコズエとクラスメートとおれは11歳だったからである。
→さて、そのクラスメートにはとうじ高校生の兄がいたが、おれがその家へ遊びにいきはじめたころ、その高校生の兄はしょっちゅう家でごろごろしていた。下級生の女の子を妊娠させてしまったのが学校にばれて、長い停学の最中だという話だった。クラスメートは家でごろごろしてる兄をおれに紹介するとき、自慢げにこう語った。
「アニキはな、下級生を妊娠させちゃったんだ。」
→なにをすれば下級生を妊娠させられるのか、とうじのおれはまだしらなかった。下級生を妊娠させるというコトの重大さも認識していなかった。ただ、クラスメートのくちぶりから、それがただごとではないことはわかった。それでおれはそのことを聞かされたとき、素直に憧れた。

「高校生になったらおれも下級生を妊娠させよう。」

→11歳のおれは深層心理でそう誓った。
→それは歴史的にはディープ・パープルがはじめて来日した年で、高校生の兄はよく部屋でディープ・パープルのレコードをかけて、それにあわせてへたくそなドラムを叩いていた。それはまた、日本じゅうの高校の教室でスモーク・オン・ザ・ウォーターのへたくそなコピーを聴くことができるようになった年号でもある。
→その高校生の兄からは、スモーク・オン・ザ・ウォーターのハイハットのきざみかたをはじめとして、じつにさまざまなことを教わった。どうすれば下級生を妊娠させられるかについて教えてくれたのも、その高校生の兄だ。とうじ11歳のおれにむかって、かれは、こんなところから話をはじめた。
「いいか。女には穴が三つあるんだ。」
→そしておれの目のまえで、指を三本たてた。おれはそのあとしばらくまともに女のひとを見れなかった。
→高校生の兄は山岳部に所属していて、高校の校舎の屋上からロープをたらしてそれをよじ登ったときの体験を聞かせてくれた。その話を聞かされたクラスメートとおれは、さっそくつぎの日に小学校の校舎の二階の窓からなわとび用のなわをたらし、それをよじ登った。
→その高校生の兄はショートホープを吸っていて、煙草の煙で輪をつくることも教えてくれた。なぜショートホープなのか、とおれがたずねると、かれはこう応えた。
「希望を灰にしてるんだ。」
→それでおれはクラスメートたちとショートホープを吸うようになった。吸いながらおれたちはくちぐちにこういいあった。
「希望を灰にしてるんだ。」
→余談だが、その意味はわかっていなかった。
→もうひとつ余談だが、その年おれのクラスを担当した女の教師は学期の途中でノイローゼになり休職した。

→おれが手紙の代筆をしたクラスメートは高校生のときオートバイの事故で死んだ。
→かつて高校生だったその兄もいまから四年ばかりまえに悪い病気で死んだ。
→おれはいまだにショートホープを吸いつづけていて、いまでもときどきスモーク・オン・ザ・ウォーターを演奏する。

沼の目次