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あのね、『アパートの鍵貸します』って映画、みたことありますか。ビリーワイルダーのやつ。ジャックレモンとシャーリーマクレーンのやつなんだけどね、まあひとことでいってしまえばようするに恋愛映画なんだけど、かんがえてみたら、いちばんなんども繰り返してみたのはこれと『ロボコップ』であることに気がついてしまった。いやあ。どうもこの取り合わせというのはちょっとどうかという気もしないでもないんだけどまあいいだろう。2ちゃんねるも「ハッキングから今晩のおかずまで」だそうだし。いやそれは関係ないか。でもすくなくとも『鬼戦車T−34』と『しびれくらげ』がいちばんなんどもみた映画ですというよりはまだ理解してもらえそうではある。映画っていうのは結果的に、ストーリーだとかなんだとかはべつとして、監督にとって世界がどうみえているかの説明になってしまうものだとおもう。「わたしにとって世の中はこんなふうにみえています」という説明。『アパート』をこれだけなんどもみてしまったということは、とどのつまり、ビリーワイルダーのみていた世界がおれはすきなのであろう。
十年くらいまえにアカデミー賞の受賞式で、功労賞みたいなのでビリーワイルダーがよばれてでてきたのをみた。そのときもう85歳くらいだったとおもう。おお、このヨレヨレのじいさんがビリーワイルダーかと興味しんしんでみていたらスピーチがはじまって、それは若き日の彼がアメリカに移住をしてきたときの話なんだけど、ユダヤ人だった彼はナチスの迫害をのがれるためヨーロッパからアメリカにやってくる。そのときのアメリカの入国審査のひとは、職務を忠実に果たすのだとしたら、ビリーワイルダーの入国を拒否すべき立場にある。彼はビリーワイルダーに、「アメリカにきてなにをするつもりなんだ?」とたずねる。「私はここで映画の仕事につくのが夢なんです」とビリーワイルダーがこたえる。すると入国審査官は「じゃ、がんばっていい映画をとってくれよ」とウインクをして、ビリーワイルダー青年をアメリカにいれてくれる。そういう説明をして、おしまいにビリーワイルダーは「それで私は、あのひととの約束を果たそうとしてきただけなんですよ」と静かにスピーチをしめくくっちゃうわけである。とうぜんみんなスタンディングオベーションとなっちゃうわけである。なかなか印象的なスピーチでした。
きょうの朝刊で、かれの訃報をみつけた。享年95歳だそうだ。たしかにあんたは立派に約束を果たしたとおもうよ、ビリー。
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