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自然界。そこには有象無象の生命がみちあふれ無知蒙昧な僕などにはおよびもつかない方法で増殖とそれにまつわる七転八倒をくりひろげている。自然界。さまざまな生命がなんだかんだと誕生と消滅をくりかえし、ほんじつたったいまこのときも世代交代をかさねている。自然界。未知と驚異の世界。そして紫電改。それはこのさい関係がない。
ともかく自然界、その驚異をちかごろ僕はまのあたりにしたのでご紹介しよう。まず菌類。去年の秋、そだてていた朝顔がタネをつけた。僕はそれをつくえの引き出しの奥にていねいに保管した。ことしも季節がめぐりきて、このタネをハチにうえて水をまいた。しばらくするとにょきにょきと芽がでて葉がでてきた。それはいいのだが、そのなかに、どうにもえたいのしれぬものがまじっている。どうみてもこれは朝顔ではない。菌類である。キノコである。どうみても。なんでこんなのが朝顔のハチからでてくるのか。どっからわいてきたのか。謎である。たしかに僕も水はやりすぎた。これでもかとハチに水をまきすぎた。結果として朝顔のハチはつねに湿地帯のような状況にあったことをみとめるのにやぶさかではない。しかし、だからといって、なぜキノコが? どっからきたんだこれ。おまけにおそろしく成長がはやい。きのう1センチくらいだとおもっていたらきょうはもう5センチくらいになっている。ブキミだ。この調子で成長をつづけて一週間後には8メートルくらいになってじつは食人キノコの正体をあかして夜中に僕がねているところをパクっとくいついてきたりはしないだろうかといやな想像をしている僕をよそに、キノコのすきなヨメはキキとして「キノコノコノコゲンキノコ」とフシギな歌を歌いながらキリフキで水をやっている。かといって朝顔のむれのなかにキノコが一本はえているというのもおかしいということで、ひとまず専用のハチにうえかえてみた。しばらくそうやって鑑賞し、あきたらそのうちくってやる予定である。もちろんそのまえにねんのためくえるのかどうかたしかめておいたほうがよかろうと図書館へいってキノコの図鑑をかりてきた。かりてきたはいいが、とてもじゃないがしらべきれないのに気がついた。しっていたか諸君。キノコというのは、とてつもなくいっぱい種類がある。ばかげているほどだ。僕なんかはめんどうくさがりなのでキノコはもうキノコってことでシイタケとエノキとその他ということで三種類くらいにしとけばそれでことたれりとかんがえるのだが、よのなかにはどうにも分類好きのひとたちというのがいて、キノコなんかも大喜びでちょこっとカサの文様がちがうだの色がちがうだのとかでいちいち分類をしてしまったらしく、おかげでこの有様である。なにしろ図鑑がもう、結婚情報誌くらいぶ厚いんである。せっかくかりてきたのだからとためしにひろげてみてもウチのキノコとにたようなのがあとからあとからでてきて、どこがどうちがうのかさっぱりわからん。おんなじだろこれ、といいたくなるようなのがつぎつぎでてきて、もはやこれは図鑑としての用をなしていないと僕にはおもえるのだが、キノコ好きのひとにとってはそうではないのだろうか。わからない。とりあえず僕は図鑑でしらべるのは断念して、食用になるのかならないのかはそのうちこっそりヨメのみそ汁にでもいれておいて人体実験によって確認するつもりである。なんの因果かわからぬが、ウチの朝顔のハチにはえてきたいじょうはウチでくってやるのが礼儀だとおもうからだ。しかし、キノコはまだなんとなくわかる。菌類なんていうくらいだから、そのへんの空気のなかをふわふわとただよってきたのかもしれない。たぶんそうなのだろう。そうしてウチの朝顔のハチに着地をして、そしたらなぜかじょばじょばと毎日水をかけてもらえるのでこりゃいいわいとカサをひろげたのかもしれない。たぶんそうなのだろう。それはいい。だが、貝類となると話はべつだ。貝類? 貝類だって? そんなものまでいるのか? そうだ。いるのだ。貝類が。いつのまにかいるのだ。ウチのメダカの水槽に。生物万歳。万歳なのか。ともかくここに、なぜかいるのだ。突如としてあらわれたのだ。タニシが。こいつはさすがに図鑑をひろげなくったってわかる。タニシはタニシだ。まごうことなきタニシだ。だがしかし、これはどっからわいてきたんだ? まさかこいつも空気のなかをふわふわとただよってきたのか。そうしてウチの水槽のなかに着水したのか? ありえねえよなあ。それはありえんだろう。どうかんがえても。でも、ほんとにいるのだからしょうがない。しかもこれがなぜかおもいのほか動きがすばやい。おれのイメージとしては1分で1ミリくらい、くたーっと緩慢に移動してそうなかんじなんだけど、こいつの場合はかなり機敏で、「くたー」というよりむしろ「くいくいっ」というかんじで水槽の壁をうごめいている。それだけならまだしもあろうことかへろへろと水中を泳いだりまでしやがる。しかもタニシ、2匹もいて、ときどきおたがいにじゃれついてるんだか共食いしてるんだかしらないけどともにひとつところに寄りかたまってうねうねと合体みたいなことをしてる。合体だって? それはつまりまさか交尾? タニシの交尾? なんてこったい。きみたちはこんな一般家庭の水槽のなかまでやってきて増殖をしようっていうのかい? うめよふやせよちにみちよってわけなのかい? わかったよ。ふえたまえ。おおいにふえたまえ。そのかわり、ふえすぎたときにはときどきヨメのみそ汁に投入してまびきさせてもらうけどかまわないね? 僕は水槽の壁をとんとんとゆびでつついてタニシにかたりかけてみる。そのうえにはキノコの鉢。やれやれ。と僕はおもう。水槽のタニシと鉢のキノコを交互にながめながら僕はかんがえる。こいつらはいったい、どこからわいてきたのだろう。諸君。気をつけたまえ。僕たちは、ほっといたらいろいろとわけのわからない連中がわいてくる世界に暮らしている。自然界。未知と驚異の世界。そして紫電改。それはこのさい関係がない。
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